83話 未知への一歩
汽車の汽笛が町を離れていく。
“記憶の橋”の仲間たちは、それぞれの新天地へと旅立った。
窓の外に広がる雪景色が、少しずつ見知らぬ風景へと変わっていく。
胸に抱くのは、別れの寂しさと、新しい世界への期待と不安だった。
カナエは、地方都市の大きな図書館に着いた。
受付で緊張しながら名前を告げると、若い司書の女性が明るく迎えてくれた。
「今日から一緒に働くカナエさんですね。どうぞ、こちらへ」
案内された書庫には、見たこともないほど多くの蔵書が並ぶ。
カナエは思わず息を呑んだ。
「すごい……。ここで、どんな物語が生まれるんだろう」
女性司書が微笑む。
「この町にも、昔からの伝承やお祭りがたくさんあるんですよ。カナエさんの“記憶の橋”の活動、ぜひ聞かせてください」
カナエは、緊張しつつも心が温かくなった。
「はい。私も、みなさんと一緒に新しい物語を作りたいです」
涼太は、都心の大学の研究室に足を踏み入れた。
周囲は見知らぬ顔ばかり。
教授が手短に紹介を済ませると、ゼミの仲間たちが集まってきた。
「涼太さん、地方の町から来たんですよね? どんな活動をしてたんですか?」
「“記憶の橋”って、SNSで見たことあります!」
涼太は少し戸惑いながらも、町での経験を語り始めた。
「僕たちは、神話や昔話を現代に伝える活動をしていました。町の祭りや、子どもたちへの読み聞かせも……」
仲間の一人が目を輝かせる。
「すごい! 今度、ワークショップやりませんか? 私たちも地域の伝承を調べてるんです」
涼太は、期待と不安が入り混じる胸の高鳴りを感じた。
「ぜひ、一緒にやりましょう」
カオルは、農業研修のために山間の村にやって来た。
駅を降りると、冷たい風とともに、見知らぬ農家の青年が声をかけてきた。
「君がカオル? 今日からうちで研修だ。よろしくな!」
カオルは深呼吸し、力強く手を差し出した。
「よろしくお願いします。俺、伝統も新しい農業も、全部学びたいんです」
青年は笑顔で頷く。
「うちは代々続く農家だけど、新しいことにも挑戦してる。失敗してもいい、どんどんやってみな」
カオルは、町の畑を思い出しながら、未知の土に足を踏み入れた。
レナは、都市のシェアオフィスでパソコンを開いていた。
周囲は起業家やクリエイターで賑わっている。
「レナさん、SNSで有名な“記憶の橋”の人ですよね?」
隣のデザイナーが声をかけてくる。
「はい。町のこと、伝統や物語を発信していました。これからは全国の仲間と新しいプロジェクトを作りたいんです」
デザイナーは興味津々で身を乗り出す。
「ぜひコラボしましょう! 地方と都市、リアルとネットをつなぐ企画、面白そう!」
レナは、未知の出会いに胸を躍らせた。
サラは、歴史ある街の文化センターに着いた。
受付で名前を告げると、年配の女性スタッフがにこやかに迎えてくれた。
「サラさん、遠いところからようこそ。こちらでは、伝統芸能や祭りの保存活動をしています。あなたの家系の舞や歌も、ぜひ教えてください」
サラは、祖母や母の顔を思い出しながら頷いた。
「私の家の伝統も、みなさんと一緒に未来へ伝えていきたいです」
女性スタッフが手を取り、そっとささやく。
「新しい土地でも、きっとあなたの光は消えませんよ」
その夜、仲間たちはそれぞれの新天地で、グループチャットを開いた。
画面越しに、互いの顔が並ぶ。
カナエが、図書館の書棚を背景に微笑む。
「みんな、新しい場所はどう?」
涼太が、研究室の窓から夜景を見せる。
「まだ慣れないけど、ワークショップの話が進みそうだよ」
カオルが、農家の土間から元気な声を響かせる。
「新しい仲間ができた! 明日は朝から畑仕事だ」
レナが、オフィスの賑わいを背に笑う。
「コラボの話がいっぱい来てる。みんなの物語を、もっと広げていきたい」
サラが、文化センターの和室から静かに語る。
「私も、家族の伝統を新しい土地で伝えていく。みんなと一緒に選んだ道、絶対に後悔しない」
悠馬が、ふいに画面に現れる。
「みんな、どんなに遠くにいても、僕たちはつながってる。困ったことがあったら、すぐに連絡して。どんな時も、支え合おう」
カナエが、涙ぐみながら微笑む。
「ありがとう、悠馬。私たち、きっと大丈夫だよね」
涼太が、力強く頷く。
「うん。迷いも失敗も、全部僕たちの物語になる」
カオルが、拳を突き上げる。
「これからも、みんなで“記憶の橋”を架け続けよう!」
レナが、スマホを掲げて笑う。
「全国の仲間にも、この光を届けたい!」
サラが、静かに微笑む。
「私たちの選択が、誰かの希望になりますように」
新しい土地、新しい出会い、新しい挑戦。
“記憶の橋”の仲間たちは、それぞれの未知へと一歩を踏み出した。
期待と不安を胸に、彼らの旅は静かに、しかし確かに始まっていく。




