82話 別れと約束
旅立ちの朝の光が、町の屋根や道をやさしく照らしていた。
“記憶の橋”の仲間たちは、それぞれの家族や地域の人々、そして互いとの別れを惜しみながら、未来への約束を交わすために町のあちこちを巡っていた。
カナエは、図書館の前で子どもたちに囲まれていた。
小さな手が彼女のコートの裾をつかむ。
「カナエさん、もう行っちゃうの?」
「またお話、読んでくれる?」
カナエはしゃがみこみ、子どもたち一人ひとりと目を合わせた。
「みんな、これからは自分たちでも物語を作ってごらん。私がいなくても、君たちの中に“記憶の橋”はちゃんとあるよ」
女の子が涙ぐみながら言う。
「でも、カナエさんがいないと寂しいよ……」
カナエは、折り紙の太陽を一枚ずつ手渡した。
「この太陽を持っていて。私も、どこかで同じ太陽を持ってるから。きっとまた会えるよ」
涼太は、大学の研究室でゼミの仲間や教授に見送られていた。
「涼太先輩、いろんなこと教えてくれてありがとうございました!」
「また戻ってきて、神話の話を聞かせてください」
涼太は、ノートを胸に抱きしめて答える。
「みんなと語り合った時間が、僕の宝物です。どこにいても、僕たちは“物語”でつながってる。必ずまた戻ってきます」
教授が静かに頷いた。
「君の旅が、きっと新しい知恵を連れて帰ってくるだろう。自分の選択を恐れず進みなさい」
カオルは、畑の入口で父と向き合っていた。
冬空の下、土の匂いが二人の間に漂う。
「父さん、俺……本当に行くよ」
父は無言でカオルの肩を強く叩いた。
「お前が選んだ道だ。失敗しても、戻ってくればいい。家族は、どこにいても家族だ」
カオルは、涙をこらえながら拳を握る。
「必ず、ここに新しい風を運ぶ。約束するよ」
レナは、カフェでスタッフや常連客たちに囲まれていた。
店長がコーヒーを差し出しながら言う。
「レナちゃん、SNSで町のことを発信してくれてありがとう。君のおかげで、町のことを誇りに思えるようになったよ」
レナは、スマホを胸に抱きしめて答える。
「私も、みんなの笑顔に支えられてきた。これからも、どこにいても町の光を発信し続ける。みんなの声も、私の宝物です」
常連の女性が、そっと折り紙の太陽を手渡す。
「これ、レナちゃんの分。帰ってきたら、また一緒にコーヒー飲みましょうね」
サラは、家の縁側で祖母と母に見送られていた。
祖母が、サラの手を両手で包み込む。
「サラ、あなたが選んだ道を、私はずっと見守っているよ。どんなに遠くに行っても、家族の絆は消えない」
母も、サラの肩をそっと抱き寄せる。
「あなたの幸せが、私の幸せ。自分の人生を大切にしてね」
サラは、涙をこらえて頷いた。
「ありがとう。私、家族の伝統も、仲間との絆も、全部胸に抱いて旅立つ。どんな未来が待っていても、必ず帰ってくるから」
その後、町の駅前に“記憶の橋”の仲間たちが再び集まった。
それぞれの目には、別れの涙と新たな決意が宿っている。
カナエが、みんなを見回して言う。
「みんな、これからはそれぞれの場所で新しい物語を始めよう。でも、私たちの“記憶の橋”は、どこまでもつながってる」
涼太が、ノートを掲げて頷く。
「うん。僕たちの選択が、未来の誰かの希望になるように」
カオルが、拳を握って叫ぶ。
「どんなに離れても、俺たちの“記憶の橋”は壊れない!」
レナが、スマホを掲げて笑う。
「全国の仲間にも、この旅立ちの光を届けよう!」
サラが、勾玉を握りしめて静かに言う。
「私たちの旅は、きっと新しい時代を照らす光になる。みんな、また必ず会おうね」
その時、悠馬がサラの隣に立ち、みんなに向かって言う。
「僕も、みんなと一緒に新しい世界を見てみたい。どんな困難も、みんなで乗り越えていこう」
カナエが、涙ぐみながら微笑む。
「ありがとう、悠馬。私たち、きっと大丈夫だよね」
涼太が、力強く頷く。
「うん。迷いも失敗も、全部僕たちの物語になる」
カオルが、拳を突き上げる。
「これからも、みんなで“記憶の橋”を架け続けよう!」
レナが、スマホを掲げて笑う。
「全国の仲間にも、この光を届けたい!」
サラが、静かに微笑む。
「私たちの選択が、誰かの希望になりますように」
汽車の汽笛が町に響き渡る。
それぞれの胸に、惜別と約束の光が灯る。
“記憶の橋”の仲間たちは、涙と笑顔で手を振り合いながら、それぞれの新しい道へと歩き出した。
別れは、終わりではなく始まり――
未来への約束を胸に、彼らの旅が静かに、力強く始まっていく。




