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81話 旅立ちの朝、再生の光

冬至の祭りから数日が経った。

町はまだ雪の名残を残しつつも、どこか柔らかく、明るい空気に包まれていた。

“記憶の橋”の仲間たちは、それぞれの心に再生の余韻と新たな決意を抱きながら、旅立ちの朝を迎えていた。


カナエは、図書館の窓辺で朝日を浴びていた。

窓の外には、子どもたちが雪を踏みしめて遊ぶ姿が見える。

彼女は、手のひらに折り紙の太陽を乗せ、そっと呟いた。


「太陽は、また昇る。私たちの町も、何度でも生まれ変われる……」


その時、同僚の美沙が声をかけてきた。


「カナエちゃん、今日で本当に旅立つの? 寂しくなるなあ」


カナエは微笑み、少しだけ涙ぐむ。


「ありがとう、美沙さん。私、ここでたくさんのことを学んだよ。でも、今度は外の世界で、もっと多くの人に“記憶の橋”の物語を伝えたいの」


美沙はカナエの手を握りしめた。


「どこに行っても、あなたはあなた。きっと大丈夫。……でも、たまには帰ってきてね」


カナエは頷き、折り紙の太陽を美沙に手渡した。


「これ、預かってて。私の“帰る場所”のしるしだから」


涼太は、大学の正門前でゼミの仲間たちに囲まれていた。

彼の手には、分厚いノートと神話の資料が挟まれている。


「涼太、いよいよ旅に出るんだね。寂しくなるよ」


後輩が声をかけると、涼太は照れくさそうに笑った。


「僕も寂しい。でも、神話や昔話の“再生”を、もっと広い世界で探してみたいんだ。町で学んだこと、みんなにも伝えていくよ」


教授が近づき、静かに言う。


「君の言葉や研究は、必ず誰かの希望になる。自分の信じた道を歩きなさい」


涼太は深く頭を下げた。


「ありがとうございます。必ず、またここに戻ってきます」


カオルは、畑の隅で父と並んで立っていた。

冬の土はまだ凍てついているが、そこには新しい苗が植えられていた。


「父さん、俺……町を離れて、農業の新しいやり方を学んでくる。伝統も守りたいけど、今の時代に合ったやり方も知りたいんだ」


父は黙ってカオルの肩を叩いた。


「お前の選んだ道なら、信じて送り出す。失敗しても、また戻ってくればいい」


カオルは、土の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。


「ありがとう、父さん。必ず、ここに新しい風を運んでくる」


レナは、カフェの窓際でスマホを見つめていた。

SNSには、全国の仲間たちからの応援メッセージが溢れている。


「レナさん、次はどこに行くの?」「あなたの発信、楽しみにしてます!」


カフェの店員がコーヒーを運びながら声をかける。


「レナさん、旅に出るんですって? 寂しくなりますね」


レナは明るく微笑んだ。


「私の言葉が、誰かの希望になるなら、どこへでも行きます。でも、また必ずここに戻ってきますから」


店員は、カップに小さな折り紙の太陽を添えてくれた。


「これ、お守りです。どこにいても、レナさんの光が届きますように」


サラは、家の縁側で祖母と母に見送られていた。

祖母は、家系に伝わる勾玉をサラの首にかけた。


「サラ、あなたの選んだ道を信じているよ。どんなに遠くに行っても、家族の絆は消えない」


母も、サラの手を握りしめて言う。


「私も、あなたの幸せを願ってる。自分の人生を大切にしてね」


サラは涙をこらえ、しっかりと頷いた。


「ありがとう。私、家族の伝統も、仲間との絆も、全部胸に抱いて旅立つ。どんな未来が待っていても、必ず帰ってくるから」


その朝、町の駅前に“記憶の橋”の仲間たちが揃った。

それぞれの荷物を肩に、少し緊張した面持ちで立っている。


カナエが、みんなを見回して言う。


「いよいよだね。みんな、それぞれの場所で新しい物語を始めよう」


涼太が、ノートを胸に抱えて頷く。


「うん。僕たちの選択が、未来の誰かの希望になるように」


カオルが、拳を握って叫ぶ。


「どんなに離れても、俺たちの“記憶の橋”は壊れない!」


レナが、スマホを掲げて笑う。


「全国の仲間にも、この旅立ちの光を届けよう!」


サラが、勾玉を握りしめて静かに言う。


「私たちの旅は、きっと新しい時代を照らす光になる。みんな、また必ず会おうね」


その時、悠馬が静かにサラの隣に立った。

彼はサラの手を握り、みんなに向かって言う。


「僕も、みんなと一緒に新しい世界を見てみたい。どんな困難も、みんなで乗り越えていこう」


カナエが涙ぐみながら微笑む。


「ありがとう、悠馬。私たち、きっと大丈夫だよね」


涼太が、力強く頷く。


「うん。迷いも失敗も、全部僕たちの物語になる」


カオルが、拳を突き上げる。


「これからも、みんなで“記憶の橋”を架け続けよう!」


レナが、スマホを掲げて笑う。


「全国の仲間にも、この光を届けたい!」


サラが、静かに微笑む。


「私たちの選択が、誰かの希望になりますように」


汽車の汽笛が町に響き渡る。

朝日が昇り、雪の大地を黄金色に染めていく。


“記憶の橋”の仲間たちは、それぞれの道へと歩き出した。

太陽の復活は、新たな始まりのしるし――

彼らの旅立ちは、町に、そして未来へと、再生の光をもたらしていく。

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