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79話 決断の裂け目――真実と対峙する夜

梅雨の晴れ間、重い湿気が町を覆う中、仲間たちはそれぞれの場所で「選択の刻」を迎えていた。

神話と現実が交差する岐路に立ち、彼らの決断が未来を分かつ――。


カナエ:禁断の書庫の扉


図書館地下の封印された書庫前で、カナエは鍵の束を握りしめていた。

同僚の真由が蒼白な顔で腕を引く。


「やめて! この書庫を開けたら町に災いが降りかかるって、館長が……」


カナエは震える指先で鍵を差し込む。


「でも、子どもたちが歌う謎の子守歌の答えがここにある。忘れられた神々の声を、どうして封じ続けるの?」


鍵が回る音が地下に響く。

扉が開くと、明治時代の地図と「アラハバキ神」と記された巻物が現れた。


真由が息を呑む。


「この神様……昔、疫病を封じた代わりに人々から忘れられたって祖母が……」


カナエは巻物を抱きしめた。


「記憶を消すのは間違ってる。たとえ怖くても、真実を伝えるのが司書の使命よ」


涼太:龍神の祠とブルドーザー


開発予定地の祠前で、涼太は地元の老人と建設業者が激しく対峙する現場に立ち合っていた。


「この祠を壊したら、また地すべりが起きるぞ!」

「科学的根拠のない伝承で工事を止めるな!」


涼太は古事記の写本を掲げて割って入る。


「スサノオがヤマタノオロチを退治した後、地中に潜って地盤を固めたという伝承があります!

この祠は龍神信仰と地質学的に重要な意味があるんです!」


業者のリーダーが嘲笑う。


「学生の妄想で工期が遅れたら、お前が責任取るのか?」


その時、地面が不気味に軋んだ。老人が叫ぶ。


「龍神の怒りだ! 早く撤収しろ!」


涼太は覚悟を決めて宣言した。


「僕が三日で地質調査をします。それまで工事を止めてください!」


カオル:呪いの畑と科学の鍬


村の不作の畑で、カオルは土壌検査機を地中に突き刺していた。

長老たちが罵声を浴びせる。


「神様の怒りに逆らうな!」

「この畑は60年周期で呪われるんだ!」


検査機の画面に数値が表示される。カオルが拳を振り上げる。


「見ろ! リン酸過多で微生物が死んでるだけだ!

石灰を撒いてpH調整すれば次の作付けから回復する!」


青年仲間が不安げに尋ねる。


「でも村の伝統を無視して大丈夫か?」


カオルは銀の指輪を光らせて笑う。


「神様と科学、どっちも信じればいい。オレは両方の道を行く!」


レナ:バーチャルとリアルの狭間


シェアオフィスで、レナは「デジタル幽霊」の正体を追うコードを書き続けていた。

画面に突然《真実を語れ》というメッセージが浮かび上がる。


「……IPアドレスを辿ると、ここから3km圏内?

まさか、あの廃病院?」


同僚のエンジニアが引き止める。


「危険だ! 警察に通報しよう」


レナは防犯カメラ付きのGoProを装着する。


「でもこれが『記憶の橋』の使命でしょ?

神話もSNSも、等しく真実を伝えるのが私たちの……」


その時、スマホが謎の緯度経度を表示した。廃病院の座標だった。


サラ:鏡の中の女神の囁き


文化センターの倉庫で、サラは封印された銅鏡に手を伸ばしていた。

館長が必死に止める。


「触ってはいけない! 戦時の大火災の原因はこの鏡だと……」


サラの指が鏡面に触れた瞬間、脳裏に光景が浮かぶ。


――岩戸に閉じこもる女神。

「選ばれし者よ 真実の扉を開け」


現実に戻ったサラは、鏡に映る自分が微笑んでいるのに気付く。


「開けます。たとえ災いが起きても、私は……私たちは乗り越えてみせます」


グループチャット:選択の刻


深夜、仲間たちのスマホが一斉に鳴る。


カナエ「図書館の禁書を公開するわ。町の歴史を隠し続けるのは間違ってる」


涼太「龍神伝承の科学的検証を始めた。神話と現実の橋になれると信じてる」


カオル「明日、石灰を撒く。神様もデータも信じる新しい農業を始める」


レナ「廃病院に向かう。真実を隠す闇を暴いてみせる」


サラ「鏡の扉を開ける。岩戸に隠された太陽を取り戻す」


悠馬が最後に送る。


「迷うな。君たちはもう『選択の刻』を越えている。

神話と現実の橋を架けるのが、僕たちの存在意義だ」


翌朝、それぞれの決断が波紋を広げ始めた。

図書館では古老たちが禁書の公開に抗議し、開発現場では地質学者たちが急遽調査に訪れ、畑には村人たちが石灰袋を運び、廃病院には警察車両が集まり、文化センターでは鏡が不気味な輝きを放っていた――

彼らの選択が、新たな神話の章を刻み始める。

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