77話 選ばれし道、広がる波紋
冬至を過ぎた町には、かすかな光の兆しが戻り始めていた。
“記憶の橋”の仲間たちは、それぞれの選択を胸に、再び集会所に集まっていた。
この日、彼らは自分たちの選んだ道が、社会や地域にどんな波紋を広げていくのかを確かめ合うために、新たな儀式と語り合いの場を設けていた。
集会所の窓からは、冬の弱い陽射しが差し込んでいた。
カナエが、折り紙の太陽をテーブルに並べながら口を開く。
「冬至を過ぎて、太陽が少しずつ強くなっていくよね。神話では、天照大神が天岩戸から出てきて、世界が再び明るくなるっていうけど……私たちも、闇の中から自分の光を見つけて、広げていける気がする」
涼太が、古事記の資料を手に頷く。
「冬至って、太陽の力が一番弱くなる日だけど、その翌日から日が長くなっていく。太陽の“死と再生”が、僕たちの選択や再出発と重なる気がするんだ」
カオルが、拳を握って言う。
「俺たちの町も、伝統が消えそうになったり、新しいことが始まったり、いろんな変化がある。でも、みんなで選んだ道なら、どんな結果でも受け止めたい」
この日、仲間たちは町の人々を招いて「冬至の再生祭」を開くことにしていた。
集会所には、子どもや高齢者、家族連れが集まり始めている。
レナが、スマホでライブ配信の準備をしながら声をかけた。
「今日の祭り、全国の“記憶の橋”ネットワークにも中継するよ。みんなの選択や想いが、遠くの誰かの光になるといいな」
サラが、祭壇に家系に伝わる勾玉と鏡をそっと飾りながら語る。
「祖母から教わった歌と舞を、みんなで奉納しようと思う。天岩戸神話みたいに、みんなの笑顔と祈りで、町に新しい光を呼び戻したい」
祭りの始まりを告げる太鼓の音が響く。
カナエが子どもたちと一緒に折り紙の太陽を掲げ、涼太が神話の一節を語り始める。
「昔々、太陽の神が岩戸に隠れて世界が闇に包まれたとき、神々は知恵と勇気を持ち寄って、再び光を呼び戻した――」
子どもたちが輪になって歌い、踊る。
高齢者たちも手拍子を打ち、若い親たちは笑顔で見守る。
カオルが、みんなの輪の中心で力強く叫ぶ。
「俺たちの町は、これからも変わっていく。でも、みんなの想いがあれば、どんな時代も乗り越えられる!」
サラが、静かに歌い始める。
その歌声は、冬の空気を震わせ、集まった人々の心に温かな火を灯す。
「♪闇を抜けて 光を迎え
選んだ道を 共に歩こう
太陽のように 何度でも
私たちは 生まれ変わる……♪」
祭壇の前で、サラと祖母が舞を奉納する。
その姿は、天岩戸の前でアメノウズメが舞った神話の再現のようだった。
祭りの後、集会所の外で仲間たちが静かに語り合う。
カナエが、涙ぐみながら言う。
「みんなで選んだ道が、こうして町の人たちの笑顔につながってる。私たちの小さな一歩が、こんなに大きな波紋を広げるなんて思わなかった」
涼太が、優しく頷く。
「神話の神々も、最初は自分たちの世界しか知らなかった。でも、みんなで力を合わせて、世界を変えていった。僕たちも、これからどんな物語を紡いでいけるか楽しみだよ」
カオルが、拳を突き上げて叫ぶ。
「これからも、みんなで町を盛り上げようぜ! 伝統も新しいことも、全部受け入れて、俺たちの“記憶の橋”を広げていこう!」
レナが、スマホを掲げて微笑む。
「全国の仲間にも、この光を届けたい。みんなの選択が、どこまでも広がっていくよ!」
サラが、悠馬の手を握りながら静かに語る。
「私たちの選んだ道が、こうして未来に続いていくのを感じる。みんなと一緒なら、どんな困難も乗り越えられる気がする」
悠馬が、サラの肩を抱き寄せて言う。
「うん。これからも、二人で、みんなで、未来へ光を届けていこう」
夜空には、冬至を過ぎたばかりの新しい月が昇っていた。
それは、太陽の再生と、仲間たちの選択が新たな時代を照らす光となることを、静かに告げているようだった。




