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72話 揺れる世界、迫られる選択

季節は冬へと向かい、町の空気はどこか張り詰めていた。

“記憶の橋”の仲間たちがそれぞれの日常に戻ってから、わずか数週間。

しかし、社会や地域には静かな異変が広がり始めていた。


ある朝、カナエは図書館の窓際で新聞を広げていた。

見出しには「地域再編の波」「伝統行事の廃止」「若者の流出」など、不安を煽る言葉が並んでいる。


カナエは眉をひそめ、同僚の司書・美沙に声をかけた。


「美沙さん……最近、町の雰囲気、変わってきたと思いませんか?」


美沙はコーヒーカップを手に、ため息をつく。


「うん。お年寄りは“昔の町じゃなくなった”って嘆いてるし、若い子たちは“ここに未来はない”って口にする。伝統行事も、今年は中止が相次いでるし……」


カナエは、窓の外に目を向ける。

子どもたちが遊ぶ公園にも、どこか寂しさが漂っていた。


「私たち、“記憶の橋”であれだけ希望を広げたのに……。何か、大きな選択を迫られている気がする」


一方、涼太は大学のゼミで教授から問いかけられていた。


「涼太君、君は“伝統”と“変化”のどちらを重視する?」


涼太は一瞬、答えに詰まった。


「どちらも大切だと思います。でも、今の社会は変化を急ぎすぎて、過去を切り捨ててしまっている気がして……」


教授は静かに頷く。


「そうだな。だが、過去に縛られすぎると未来を閉ざすことにもなる。君自身は、どんな選択をしたい?」


涼太は、ノートを見つめながら考え込む。


(僕は……何を守り、何を変えるべきなんだろう)


カオルは、父と畑仕事をしていた。

父がふいに言う。


「町の農地が、また一つ宅地になるそうだ。時代の流れだが、寂しいもんだな」


カオルは鍬を止め、父の横顔を見つめる。


「父さんは、どう思う? 俺たちの畑も、いずれは……」


父はしばらく黙っていたが、やがて静かに語った。


「土地は受け継ぐものだが、時代に合わせて変える勇気も必要だ。だが、お前が“守りたい”と思うなら、俺はそれを応援する」


カオルは、土の感触を確かめながら自分に問いかけた。


(自分は何を選ぶべきなんだろう。守るべきもの、変えるべきもの……)


レナはカフェで、SNSを通じて全国の“記憶の橋”ネットワーク仲間とグループチャットをしていた。


「地方の町がどんどん消えていく」「伝統行事がなくなって寂しい」「でも、新しいイベントをやろうって声もあるよ」


レナはスマホを見つめ、考え込む。


(私は、何を発信すればいい? 変化を恐れず、でも過去も大事にしたい……)


その時、隣の席の女性が話しかけてきた。


「レナさん、あなたの投稿、うちの町でも話題になってるの。みんな“これからどうするべきか”悩んでるみたい」


レナは驚き、そして真剣な表情で答えた。


「私も悩んでます。でも、みんなで考えて、選んでいくことが大事なんだと思います」


サラは、家の縁側で祖母と向き合っていた。

祖母は、家系に伝わる古い巻物を手にしていた。


「サラ、お前に託したいことがある。家の“記憶”をどう未来に残すか、そろそろ決める時が来た」


サラは戸惑いながらも、真剣な眼差しで祖母を見つめる。


「私……まだ自信がありません。家族の伝統も大事だけど、私自身の人生も大切にしたい。どうしたらいいんでしょうか」


祖母は静かに微笑む。


「迷っていい。悩んでいい。だが、選ぶのはお前自身だよ。どんな選択でも、きっと未来につながる」


その夜、仲間たちは再びオンラインで集まった。

画面越しに、みんなの顔が並ぶ。


カナエが、深刻な表情で切り出した。


「みんな、町が変わろうとしてる。伝統行事も消えそうだし、若い人もどんどん出ていく。私たちは、どうすればいいんだろう」


涼太が、ノートを見つめながら言う。


「大学でも“伝統か変化か”って議論が続いてる。どちらか一方だけじゃなくて、両方を大事にできる道はないのかな」


カオルが、拳を握って語る。


「俺は、家族の畑を守りたい。でも、時代の流れも無視できない。何を選ぶべきか、正直わからないよ」


レナが、スマホを見つめて呟く。


「全国の“記憶の橋”の仲間も、みんな悩んでる。何を残し、何を変えるべきか……。私たちの発信が、誰かの選択のヒントになればいいけど」


サラが、画面越しにみんなを見つめて言う。


「私も、家族の伝統と自分の人生の間で迷ってる。でも、選ぶのは自分自身だって祖母に言われた。みんなは、どうしたい?」


しばらく沈黙が流れる。

やがて悠馬が、ゆっくりと口を開いた。


「僕は……サラと一緒に未来を選びたい。みんなと一緒に、これからの“記憶の橋”をどう架けるか考えたい。守るものと変えるもの、両方大切にできる道を探したい」


カナエが、涙ぐみながら微笑む。


「私も、みんなと一緒ならどんな選択も怖くない。きっと、答えは一つじゃないよね」


涼太が、頷く。


「うん。僕たちが悩みながら選んだ道なら、きっと意味があるはずだ」


カオルが、力強く言う。


「どんなに迷っても、最後は自分の意志で決める。俺は、そうやって生きていきたい」


レナが、スマホ越しにみんなを見回す。


「私も、みんなの想いをつなげていきたい。過去も未来も、全部大事にしたい」


サラが、深く頷く。


「ありがとう、みんな。私も、自分の選択を信じてみる」


その夜、みんなはそれぞれの場所で、静かに未来を思った。

社会も家族も自分自身も、大きな選択の時を迎えている――

“記憶の橋”の仲間たちは、それぞれの心に新たな決意を灯し始めていた。

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