68話 大地に再び光が射す
夜が明けると、町は昨日までの沈鬱な空気から、どこか柔らかい温もりを取り戻していた。
“記憶の橋”の仲間たちが主催した「光のモニュメント」と歌と舞の儀式は、地域の人々の心に確かな変化をもたらし始めていた。
朝、集会所の前には、子どもたちが集まっていた。
折り紙で作った太陽や願い事の短冊が、朝日を浴びてきらきらと輝いている。
カナエが、子どもたちと一緒に折り紙の太陽を並べながら声をかける。
「昨日の夜、みんなで踊ったの楽しかったね。今日も一緒に太陽を作ろうか?」
小さな男の子が、はにかみながら答える。
「うん! ぼくね、またおばあちゃんと一緒にごはん食べられるようにってお願いしたんだ」
カナエは優しく微笑み、男の子の肩をそっと抱く。
「きっと願いは叶うよ。みんなで力を合わせて、毎日を大切にしていこうね」
集会所の中では、高齢者たちが輪になって話し合っていた。
カオルが、しめ縄を手に語りかける。
「このしめ縄、みんなで作ったから特別だな。昔は祭りのたびにこうして集まってたんだって、おばあちゃんが言ってた」
高齢の男性が、懐かしそうに頷く。
「そうだよ。昔は災害のあとも、みんなで集まって歌ったり踊ったりしたものさ。最近はそんな機会も減っていたけど、昨日は若い人たちも一緒に盛り上げてくれて、本当にうれしかった」
カオルが、拳を握って言う。
「これからは、もっとみんなで集まれる場所を作りたい。世代も立場も関係なく、助け合える町にしたいんだ」
涼太は、紙芝居を囲む子どもたちに神話の物語を語っていた。
「昔々、世界が闇に包まれたとき、神々は知恵と勇気で太陽を呼び戻したんだ。みんなもきっと、困ったときは誰かと力を合わせて乗り越えられるよ」
女の子が手を挙げて尋ねる。
「涼太お兄ちゃん、神様みたいに強くなれるかな?」
涼太は優しく頷く。
「もちろん。強さって、誰かを思いやる心や、諦めない気持ちのことなんだよ。みんなはもう、十分強いよ」
レナは、SNSで「光のモニュメント」の様子を発信し続けていた。
全国から「私たちの町でもやってみたい」「勇気をもらった」「ありがとう」という声が届き始めている。
レナが、スマホの画面をみんなに見せながら嬉しそうに言う。
「見て! 全国の人たちが、私たちの活動に共感してくれてる。小さな光だけど、確かに広がってるよ」
カナエが、感動したように頷く。
「私たちの“記憶の橋”が、遠くの町にも届いてるんだね……」
サラは、家族と向き合っていた。
母は、サラの手を握りしめて静かに語る。
「サラ、あなたの選んだ道を信じるわ。家の伝統も大事だけど、あなた自身の想いも大切にしてほしい。昨日の歌と舞、本当に素敵だった。おばあちゃんも、きっと誇りに思ってる」
サラは涙をにじませて微笑む。
「ありがとう、お母さん。私、これからも家族と地域のためにできることを探していく。みんなで一緒に、未来を作っていきたい」
その日の午後、集会所の広場で仲間たちが再び集まった。
悠馬が、みんなを見回して語る。
「僕たちが始めた小さな行動が、地域や社会に変化をもたらし始めてる。喪失や分断から、少しずつだけど再生と和解が生まれてるんだ」
カナエが、明るく手を叩く。
「これからも、みんなで希望の火を絶やさないようにしよう。どんなに小さなことでも、誰かの光になれるって信じてる」
カオルが、拳を突き上げる。
「よし、もっとたくさんの人を巻き込んで、町中を元気にしようぜ!」
涼太が、ノートを掲げて言う。
「神話や昔話の知恵を、これからも子どもたちや大人たちに伝えていきたい。僕たちの“記憶の橋”は、まだまだこれからだよ」
レナが、スマホを掲げて微笑む。
「SNSでも現実でも、みんなの想いをつなげていく。希望の輪を、どこまでも広げたい」
サラが、悠馬の隣で静かに語る。
「私たちの“記憶の橋”が、こうして未来に続いていくのを感じる。みんなと一緒なら、どんな困難も乗り越えられる気がする」
悠馬が、サラの手をそっと握る。
「うん。これからも、二人で、みんなで、未来へ光を届けていこう」
夕暮れ、町の空には大きな虹がかかった。
それは、分断と喪失を乗り越え、再生と希望の象徴のようだった。
“記憶の橋”の仲間たちの小さな行動は、やがて大地に再び光を射し、未来へと続く新たな物語の始まりとなった――。




