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63話 神話的災厄の再来

東京の空は、なおも重苦しい灰色に覆われていた。

災害や社会不安は収まる気配を見せず、街には焦燥と諦めが漂っている。

“記憶の橋”の仲間たちは、久しぶりに集まり、神話の本を囲んで静かに語り合っていた。


カナエが、ページをめくりながら口を開く。


「……天岩戸の神話って、今の私たちの状況そのものだよね。太陽が消えて、世界が闇に包まれる。希望も笑顔も、どこかに消えてしまったみたい」


涼太が、真剣な表情で続ける。


「神話の中では、アマテラスが岩戸に隠れたことで、世界にありとあらゆる禍いが満ち溢れたって書いてある。今の災害や分断も、まるで“太陽の消失”が現代に蘇ったみたいだよ」


カオルが、拳を握りしめて言う。


「でも、神々は諦めなかった。八百万の神が集まって、知恵を出し合い、祭りをして、笑い声を響かせて――やっとアマテラスが外に出てきた。今の俺たちには、その“笑い声”や“団結”が足りないのかもしれない」


サラは、静かに本を閉じて語り始める。


「黄泉の国の神話も思い出す。イザナミを追って黄泉の国に降りたイザナギは、死と闇に直面し、絶望の中で逃げ出した。私たちも今、喪失と孤独の“黄泉”を歩いているのかもしれない……」


悠馬が、サラの言葉に頷く。


「神話では、闇や死は“終わり”じゃなくて、再生の前触れだったよね。天岩戸の闇も、黄泉の国の絶望も、そこから新しい光や命が生まれるきっかけになった。だけど、そのためには“自分の心の闇”と向き合うことが必要だったんだ」


レナが、スマホを見つめながらぽつりと呟く。


「現代の災厄って、自然災害や病気だけじゃない。SNSの分断や、誰かを責める空気、みんなが自分の殻に閉じこもってる。まるで“現代の天岩戸”だよ」


涼太が、静かに語る。


「神話の神々も、最初はどうしていいかわからなかった。でも、みんなで知恵を出し合い、役割を分担して、最後は“笑い”で岩戸を開いた。今の僕たちも、誰かのせいにするんじゃなくて、自分の中の闇や弱さと向き合って、みんなで力を合わせることが必要なんだと思う」


サラが、少し涙ぐみながら言う。


「私……最近、自分の中の闇に負けそうだった。家族の期待、社会の不安、みんなの役に立てない自分。だけど、神話の神様たちも、完璧じゃなかった。失敗したり、悩んだり、でも最後はみんなで乗り越えた。私も、もう一度みんなと一緒に、希望を探したい」


カナエが、サラの手を握る。


「私もだよ。こんな時だからこそ、私たちが“記憶の橋”を架ける意味があるんだと思う。過去の神話や伝承は、絶望の中でこそ生きる知恵と勇気をくれる」


悠馬が、みんなを見回して力強く言う。


「闇が深いほど、光は強く輝く。僕たちが今できることは、小さくてもいいから“希望の火”を灯し続けること。神話の神々みたいに、みんなで力を合わせて、もう一度世界に光を取り戻そう」


その夜、仲間たちはそれぞれの心の闇と向き合いながら、再び希望を探し始めた。

天岩戸や黄泉の国の神話が教えてくれるのは、絶望の先にこそ再生があるということ――

現代の災厄の根源もまた、人々の心の闇にあるのかもしれない。

“記憶の橋”の新たな使命が、静かに浮かび上がり始めていた。

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