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61話 闇に包まれる現代社会

その年の夏、東京の空は不気味な灰色に覆われていた。

連日の豪雨と地震、広がる感染症、SNSでは誹謗中傷や分断の言葉が渦巻き、街には希望の光が失われていった。

人々は不安と孤独に沈み、まるで太陽が消えたかのような重苦しい日々が続いていた。


カナエは、大学のキャンパスの片隅で、沈んだ表情のまま呟いた。


「……まるで天岩戸の神話みたいだね。太陽が隠れて、世界が闇に包まれる――あの時代の人たちも、こんな気持ちだったのかな」


涼太が、スマホで災害情報を確認しながら答える。


「ニュースもSNSも、暗い話題ばかり。誰もが自分のことで精一杯で、優しさや思いやりが消えていく気がする。神話の中でアマテラスが岩戸に隠れたとき、地上は真っ暗になって、神々も困り果てたっていうけど……今の僕たちも同じだよ」


カオルが、拳を握りしめて言う。


「俺たち、“記憶の橋”で色んなことを学んできたはずなのに、現実の前では何もできない。無力だよな……」


サラは、家の窓から雨に濡れる街を見下ろしていた。

家族も仕事も、地域も、みんなが不安と苛立ちに満ちている。

母親が背後でため息をつく。


「サラ、あなたは“継承者”として何かできることはないの? このままじゃ、みんな心まで壊れてしまうわ」


サラは小さく首を振る。


「私にも分からない……。どうしてこんなに闇が深いのか、どうすれば光を取り戻せるのか……」


その夜、仲間たちは久しぶりにオンラインで顔を合わせた。

画面越しの表情は、誰もが疲れ切っていた。


レナが、静かに言う。


「現実がこんなに苦しいと、神話や歴史の知恵も遠く感じる。私たちが架けようとした“記憶の橋”って、意味があったのかな……」


悠馬が、沈黙のあと、ぽつりと呟いた。


「……天岩戸の神話では、神々が力を合わせてアマテラスを呼び戻そうとした。今の僕たちにできることは、何かあるんだろうか……」


カナエが、涙ぐみながら言う。


「希望が見えない。でも……みんなと一緒なら、きっと何かできるはずだよね?」


都市の闇は深く、社会の分断と絶望が人々の心を覆い尽くしていた。

だが、主人公たちはまだ、わずかな光を信じていた――

天岩戸の奥に隠れた太陽のように、再び世界に光を取り戻すための“何か”を探し始めようとしていた。

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