59話 「新たな危機の兆し」
夏の終わり、東京の空は不穏な雲に覆われていた。
“記憶の橋”の仲間たちは、プロジェクトの成果発表を控え、大学の一室で集まっていたが、どこか落ち着かない空気が流れていた。
カナエが、窓の外を見つめて呟く。
「最近、変なニュースが多いよね。大雨で川が氾濫したり、地震が続いたり、伝染病の流行も……。まるで昔の神話に出てくる“災厄”が、また現代に戻ってきたみたい」
涼太が、資料をめくりながら真剣な表情で応じる。
「日本の神話には、自然災害や疫病、鬼や妖怪が災厄の象徴として何度も現れる。昔の人は、災害を“神の怒り”や“見えない存在の警告”として受け止めて、祭祀や祈りで鎮めようとしたんだ。でも、今の僕たちはどう向き合えばいいんだろう?」
カオルが、拳を握りしめて言う。
「科学や技術が進んでも、自然の力には敵わないことがある。神話の時代と同じように、僕たちも“見えないもの”への畏れや敬意を忘れちゃいけないんじゃないか」
レナが、スマホでSNSのタイムラインを見ながら不安げに呟く。
「分断や不安が広がってる。誰もが自分のことで精一杯で、社会全体がギスギスしてる気がする。昔の神話だと、災厄の時こそ“和解”や“共生”が大事だったよね」
そのとき、サラが静かに口を開く。
「私たち“記憶の橋”の使命は、過去の教訓を今に生かすことだと思う。神話の中では、災厄を鎮めるためにみんなで祈り、力を合わせた。現代の私たちも、恐れや不安に飲み込まれるんじゃなくて、希望やつながりを信じて行動しなきゃいけない」
悠馬が、みんなを見回して力強く言う。
「そうだ。神話の災厄は、ただの絶望じゃなかった。そこから新しい時代や価値観が生まれた。今こそ、僕たちが“記憶の橋”として、過去と未来をつなぐ役割を果たすときなんだ」
カナエが、涙ぐみながら頷く。
「怖いけど……みんなと一緒なら、どんな危機も乗り越えられる気がする。私たちが希望の火を絶やさなければ、きっと未来は変えられる」
外では、雷鳴が遠く轟く。
過去の神話的災厄が、現代社会にも再び影を落とす予兆が色濃くなっていく。
だが、“記憶の橋”の仲間たちは、希望と使命を胸に、未来への歩みを止めなかった――。




