53話 「“記憶の橋”プロジェクト始動」
晴れた土曜の午後、大学のセミナールーム。“記憶の橋”の仲間たちは、ホワイトボードを前に円陣を組んでいた。
カナエが、緊張した面持ちで口火を切る。
「ねえ、私たち、このまま神話や歴史の話を自分たちだけで終わらせていいのかな? せっかく色んなことを知ったのに、現実の社会には何も還元できていない気がするんだ」
涼太が、ノートパソコンを開きながら熱を込めて応じる。
「僕も同じこと考えてた。神話や伝承って、ただの昔話じゃなくて、現代の社会問題にもヒントをくれると思う。たとえば、災害の伝承は防災意識につながるし、分断や孤独の問題には“和解”や“共生”の神話が役立つはずだよ」
サラが、少しだけ不安げに口を開く。
「でも、どうやってそれを形にすればいいの? 私たちに何ができるのか、まだ見えてこない……」
カオルが、腕を組んで真剣な表情で言う。
「まずは身近なところから始めてみよう。たとえば、地域の子どもたちや高齢者に神話や昔話を語る会を開くとか。祭りや行事に参加して、神話のエピソードを現代の意味で伝えていく。小さなことでも、誰かの心に残れば十分だと思う」
レナが、スマホで資料を検索しながら提案する。
「SNSや動画配信も使えるよ。神話や歴史の知恵を分かりやすく現代語訳して発信したり、現代の悩みと神話の教訓を結びつけてみたり。若い世代にも届くような“記憶の橋”を作りたい」
悠馬が、みんなの顔を見回しながらゆっくり語る。
「僕たちが体験した神話の世界には、困難に立ち向かう勇気や、違いを認め合う寛容さ、自然や命への畏敬があった。それを現代の社会問題――たとえば災害や分断、喪失感――にどう活かせるか、みんなで考えていこうよ」
カナエが明るく手を叩く。
「“記憶の橋”プロジェクト、始めよう! まずは地域のワークショップと、SNSでの発信からやってみない?」
サラが、少しずつ笑顔を取り戻しながら頷く。
「うん。私も、自分の家系や神話の知識を、誰かの希望や力にできたら嬉しい。みんなと一緒なら、きっとできる気がする」
こうして、“記憶の橋”プロジェクトが静かに動き出した。
過去の神話や伝承は、現代の希望や知恵として、少しずつ社会に広がり始める――。




