52話 「現代への還帰と揺れる心」
灰色の雲が垂れ込める東京の朝。
“記憶の橋”の面々――悠馬、サラ、カナエ、涼太、カオル、レナ――は、神話と歴史の幻視体験を経て、それぞれの現実の生活へと戻っていた。
悠馬は大学の講義室で、ぼんやりとノートをめくっていた。
講義の内容が頭に入らず、ふと隣の席のカナエが声をかける。
「悠馬、どうしたの? 顔色悪いよ。やっぱり、あの体験がまだ心に残ってる?」
悠馬は苦笑し、ノートの端に神代文字の断片を描く。
「うん。現実に戻ったはずなのに、あの神話の世界が頭から離れない。自分が何をすべきなのか、わからなくなってるんだ。」
カナエは静かに頷き、窓の外の空を見つめる。
「私も同じ。あの世界で見たもの、感じたことが、今の自分にどう繋がるのか――ずっと考えてる。私たち、何か大きな使命を託された気がしない?」
一方、サラは自室で家系の古い巻物を広げていた。
独りきりの部屋で、彼女は自分の役割に迷いを抱えていた。
「私は“記憶の継承者”……でも、本当にそれが私の使命なの? 私自身の人生はどこにあるの?」
母親の声が廊下から響く。
「サラ、あなたは代々の役目を果たすために生まれてきたのよ。迷わないで。あなたの中に、すべての記憶が宿っているのだから。」
サラは小さく首を振り、窓の外に目をやる。
「私は……私自身の答えを見つけたい。」
その夜、仲間たちは久々に集まった。
カフェのテーブルを囲み、それぞれの葛藤が静かに交錯する。
涼太がコーヒーを啜りながら言う。
「僕も、現実に戻ってから何も手につかなくなった。神話の世界で感じた“自分の役割”が、現代社会でどう生かせるのか、全然わからない。」
カオルが真剣な表情で続ける。
「みんな同じだよ。俺も、家族や仕事との間で揺れてる。けど、あの経験は絶対に無駄じゃないはずだ。俺たち、何かを変えるために“記憶の橋”を渡ったんだろ?」
レナがスマホを弄りながら、ふと呟く。
「神話や伝統が、現代にどんな意味を持つのか――それを考えるのが、私たちの使命なのかもしれないね。」
サラがゆっくりと口を開く。
「……私は、自分の役割にずっと迷ってる。家族の期待も、伝統も重い。でも、みんなと一緒に旅をして、初めて“自分で選ぶ”ことの大切さに気づいた。怖いけど、私は私の答えを探したい。」
悠馬がサラを見つめ、静かに頷く。
「サラ……僕も、まだ自分の使命が何なのか分からない。でも、みんなでなら、きっと見つけられる気がする。一緒に、もう一度“記憶の橋”を架けてみようよ。」
沈黙のあと、カナエが明るく言う。
「そうだね。私たち、まだ始まったばかりだよ。過去も未来も、全部つなげて――私たちの物語を作ろう!」
それぞれの迷いと希望が交差し、新しい“橋”が静かに架かり始めていた――。




