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49話 「国譲りと幽世への旅立ち」

出雲の国が豊かさと平和に包まれていたある日、天上界――高天原から新たな波紋が広がった。

“記憶の橋”の面々は、国譲り神話の決定的な瞬間を幻視していた。


カナエが、緊張した面持ちで語る。


「……ついにアマテラスの使者が出雲に来る。大国主命が築いたこの国を、天の神々が欲しがるなんて……。大国主命は、どうして国を譲らなきゃいけなかったんだろう?」


涼太が古文書を手に、熱を込めて続ける。


「最初に来たのはアメノホヒ。でも彼は大国主命の人柄に惚れ込んで、出雲に仕えてしまった。次のアメノワカヒコも同じ。最後に来たのがタケミカヅチ――武力と威光を持つ最強の使者。けれど、戦争じゃなく交渉で決着がついたんだ」


レナがタブレットで資料を映しながら補足する。


「大国主命は、自分一人で決めず、二人の息子に国を譲るかどうかを託したの。結局、天の神々に国を献上することになった。でもその代わり、天皇の宮殿に匹敵する大きな神殿――出雲大社を建てるように願い出たのよ」


カオルが護符を握りしめ、静かに言う。


「国を譲るって、負けたとか滅ぼされたってことじゃない。大国主命は出雲の魂を“幽世かくりよ”――目に見えない世界に託して、現世と隠世の両方の主となった。だから今も“縁結びの神”として生き続けてるんだ」


出雲の神殿。

タケミカヅチが厳かに告げる。


タケミカヅチ「天照大御神の御心により、この葦原中国を天津神の子孫に譲っていただきたい。大国主命よ、いかがなされるか?」


大国主命「……この国は、私が多くの神々と民と共に築いたもの。だが、天の神々の御心とあらば、私は国を譲ろう。ただし、私の魂が鎮まるための大きな神殿を、この地に建ててほしい」


タケミカヅチ「その願い、必ず叶えよう」


“記憶の橋”の面々は、国譲りの決断を見つめて語り合う。


悠馬が静かに言う。


「大国主命の国譲りは、争いじゃなく“和解”の物語だったんだ。自分の誇りと魂を守りながら、新しい時代に道を譲る――それが本当の強さだったんだね」


カナエがしみじみと呟く。


「大国主命は、現世から姿を消しても、幽世の主として今も人々を見守ってる……。だから出雲大社は“目に見えない世界”と“現実”をつなぐ場所なんだね」


涼太が古文書を掲げて締めくくる。


「国譲りの神話は、出雲の魂が日本全体に受け継がれた証。神話の“譲る”は、滅びじゃなくて新しい始まりなんだ」


大国主命は静かに神殿を見上げ、幽世の主として新たな旅路へと歩み出す。

出雲の魂は、時代を超えて今もなお生き続けている――。

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