47話 「根の国の試練と大国主の継承」
出雲の大地に新たな秩序が芽生えつつある頃――
スサノオの子孫、大国主命は、八十神たちの迫害を受け、命からがら根の堅洲国――冥界のような異界へと逃れた。
“記憶の橋”の面々は、根の国の闇の中で、神話の試練と継承の物語を幻視していた。
カナエが、息を呑んで囁く。
「……ここが“根の国”、スサノオの支配する異界。大国主命はここで試練を受けるんだね。スサノオの娘、スセリヒメと出会って――」
涼太が古文書を手に、熱を込めて語る。
「大国主命は、まず蛇だらけの部屋に閉じ込められる。スセリヒメが“比礼”という魔法の布を差し入れてくれて、命拾いするんだ。次はムカデと蜂の部屋、そして最後は野原で鏑矢を探す試練。どれも命がけだった」
レナがタブレットで資料を映しながら補足する。
「スサノオは簡単に娘を嫁にやらない。大国主命の知恵と勇気、そしてスセリヒメの愛がなければ乗り越えられなかった。神話の“継承”は、血筋だけじゃなく、試練を通じて認められるものなんだね」
カオルが護符を握りしめ、静かに言う。
「最後の試練は、スサノオの頭の虱を取るふりをしてムカデを噛み砕くやつだろ? 大国主命は椋の実と赤土でごまかして、スサノオを欺く。神話の英雄は、ただ強いだけじゃなく、知恵と機転も求められるんだな」
根の国の宮殿。
スサノオが大国主命を睨みつけ、声を響かせる。
スサノオ「お前が我が娘スセリヒメを娶りたいと言うなら、我が試練をすべて乗り越えてみせよ!」
大国主命「……はい、父上。どんな苦難も、スセリヒメと共に越えてみせます」
スセリヒメ(そっと大国主命に布を渡しながら)「この比礼を使って……必ず生きて戻ってきて」
(蛇の部屋、ムカデと蜂の部屋、野原の火――すべてスセリヒメの助けで切り抜ける)
スサノオ「ほう、よくぞ生きて戻ったな。だが、最後の試練だ。わしの頭の虱を取れ」
(大国主命は椋の実と赤土でムカデをごまかし、スサノオを眠らせる)
大国主命はスサノオの髪を柱に結びつけ、宝剣と弓矢、天詔琴、そしてスセリヒメを連れて脱出する。
スサノオ(目覚めて叫ぶ)「この奴め! その太刀と弓で八十神を倒し、大国主を名乗れ! スセリヒメを正妻とし、宇迦の山の麓に社を建てて住むのだ!」
“記憶の橋”の面々は、継承の瞬間を見つめて語り合う。
悠馬が静かに言う。
「スサノオから大国主命への“国づくり”の継承は、ただの血縁じゃない。命がけの試練と、愛と知恵の物語だったんだ」
カナエがしみじみと呟く。
「苦しみを乗り越えた者だけが、新しい時代を切り拓く資格を得るんだね……」
涼太が古文書を掲げて締めくくる。
「こうして大国主命は出雲の主となり、スサノオの“国づくり”の意思を継いだ。神話の継承は、時代を超えて今も生きている」
根の国の闇が晴れ、出雲の大地に新たな光が差し込む。
大国主命の物語は、ここから新しい国造りへと続いていく――。




