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46話 「祓いと鎮めの祭祀」

出雲の国に新たな秩序が芽生え始めた頃、かつての天変地異や災厄の記憶は、人々の心に深い影を落としていた。

“記憶の橋”の面々は、出雲の社の静寂の中で、古代の祓いと鎮めの祭祀を幻視していた。


カナエが、神楽殿の鈴の音に耳を澄ませながら語る。


「……スサノオの荒ぶる魂が土地を揺るがし、オロチ退治で平和が訪れたけど、人々の心にはまだ恐れや穢れが残っていたんだね。だから祓いの祭りや鎮めの儀式が生まれたのかな」


涼太が古文書を手に、熱を込めて続ける。


「出雲大社や須佐神社では、今も“祓い”の神事が続いている。大祓や御霊会、茅の輪くぐり……全部、天変地異や疫病を鎮め、穢れを祓うための祭祀なんだ。スサノオ自身も“祓いの神”として信仰されてきた」


レナがタブレットで資料を映しながら補足する。


「祇園祭や津島祭も、スサノオ信仰がルーツよ。京都の八坂神社や愛知の津島神社では、疫病退散や水害鎮静の神として祀られている。神話の荒ぶる神が、やがて人々の守護神に変わっていったのね」


カオルが護符を握りしめ、静かに言う。


「人は災いを恐れ、でもそれを乗り越えるために祈りを続けてきた。祓いの儀式は、ただの迷信じゃなくて、心の再生や共同体の絆を強めるためのものだったんだな」


出雲の社で、神職たちが厳かに祝詞を唱える。

スサノオの御霊を鎮め、土地の穢れを祓うための神事が始まる。


神職「大祓詞を奏上いたします。罪穢れよ、清き川原に流れ去れ。荒ぶる神よ、御心鎮まり給え……」


村人A「去年は大水で田畑が流されました。今年こそ、神様のご加護を……」


村人B「疫病も流行っている。どうか、スサノオ様のお力で悪しきものを祓い給え……」


“記憶の橋”の面々は、祓いと鎮めの祭祀を見つめて語り合う。


悠馬が静かに言う。


「神話の時代から、災いと祈りはずっと隣り合わせだった。祓いの儀式は、ただ災厄を恐れるだけじゃなく、みんなで希望を持ち直すための“再生の祭り”でもあったんだ」


カナエが頷き、しみじみと呟く。


「恐れや穢れを祓うことで、人は新しい一歩を踏み出せる。神話も現実も、祈りの力で未来を切り拓いてきたんだね」


涼太が古文書を掲げて締めくくる。


「スサノオの物語は、荒ぶる神から祓いの神へ――変化と再生の象徴なんだ。今も続く祭りや祈りに、その魂は生きている」


社殿の鈴が鳴り、清らかな風が大地を包む。

人々の祈りとともに、出雲の国に新たな平和が訪れようとしていた――。

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