43話 「スサノオ、出雲への降臨」
高天原――日高見国を追われたスサノオは、重い雲とともに東の空へ消えた。
“記憶の橋”の面々は、神話の幻視の中で、スサノオの長い旅路を追っていた。
カナエが、地図を指でなぞりながら囁く。
「……スサノオは、北の海を越えて朝鮮半島の新羅に渡ったって伝承もあるんだね。それから再び海を渡って、出雲の斐伊川上流――船通山に降り立った。まるで、ムーから日高見国、そして出雲へと続く“神の道”みたい……」
涼太が古文書を手に、熱を込めて語る。
「『古事記』でも『日本書紀』でも、スサノオは高天原から追放されて出雲に降りる。特に日本書紀の“第四の一書”には、新羅を経由して出雲へ至るって記されている。これは、スサノオが渡来神――つまり、外から新しい文化や技術をもたらした存在だってことを示しているんだ」
レナがタブレットで地図を拡大しながら補足する。
「出雲の斐伊川上流、船通山――ここがスサノオ降臨の地とされている。たたら製鉄や巨石信仰、そしてヤマタノオロチ伝説……全部がこの地に集まっているのね」
カオルが護符を握りしめ、低く呟く。
「スサノオの追放は、ただの罰じゃない。ムーの記憶と日高見国の誇りを抱えて、新しい土地で新しい時代を切り開く――それが、出雲建国の始まりなんだ」
スサノオが、船通山の頂に立ち、荒れた風の中で叫ぶ。
スサノオ「……ここが俺の新しい地か。高天原も、母の国も遠くなった。だが、この大地に、俺の魂を刻もう。ムーの血も、日高見国の誇りも、すべてこの出雲に託す!」
地上の民たちが、恐れと期待の入り混じった目でスサノオを見上げる。
村人A「空から黒雲が降りてきたぞ……神か、鬼か?」
村人B「だが、あの神が新しい時代をもたらすのかもしれぬ……」
“記憶の橋”の面々は、スサノオの姿に胸を打たれて語り合う。
悠馬が静かに言う。
「スサノオの降臨は、破壊と再生の物語なんだ。高天原の秩序を壊し、新しい土地で英雄となる。彼の旅路は、ムーから日高見国、そして出雲へと続く“記憶の橋”そのものなんだよ」
カナエがしみじみと呟く。
「神話の追放劇は、失われた故郷への哀しみと、新しい世界を切り開く勇気の物語なんだね……」
涼太が古文書を掲げて締めくくる。
「スサノオはここからヤマタノオロチを退治し、出雲の王となる。ムーと日高見国の魂が、出雲で新たな神話を生み出すんだ」
スサノオの叫びが、出雲の山々にこだました。
新しい時代の幕開けを告げる風が、東から吹き始めていた――。




