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37話 「神憑りと幻視の夜」


夜の帳が境内を包み、蝋燭の灯りが揺れる。

“記憶の橋”の面々、巫女・沙耶、王子・稜真は、神楽殿に集い、静かに儀式の時を待っていた。


カナエが囁く。


「……今夜は“神憑り”の儀式。巫女が神そのものを身に降ろし、幻視や予言を語るって……本当に神話の世界みたい」


涼太が古文書を手に、熱を込めて語る。


「神憑りは、巫女の最奥儀式。自我を超えて神の意志と一体化し、未来や過去、見えざるものを語る。イタコやユタの口寄せとはまた違う、神と人の境界を越える“危うい技”なんだ」


レナがタブレットで記録しながら補足する。


「幻視の中で語られる言葉は、しばしば謎めいている。神話や伝承、時には誰も知りえない未来の出来事さえ……。巫女自身も、そのすべてを覚えていないことが多いの」


カオルが護符を握りしめ、沙耶を見つめる。


「巫女の魂が、神と人の狭間に立つ。命を削るような儀式だ。俺たちも、覚悟して見届けよう」


沙耶が静かに鈴を振り、祝詞を唱え始める。

その声は次第に深く、太古の響きを帯びていく。

やがて、沙耶の身体が小刻みに震え、瞳に異なる光が宿る。


沙耶の口から、普段とは異なる低く澄んだ声が紡がれる。


「……闇の彼方より、光の王子よ、記憶の橋の者たちよ。時は巡り、魂は再び契りを結ぶ。ムーの影、ヤマトの光、二つの運命が交わる時、未来の扉が開かれる」


稜真が息を詰めて問いかける。


「神よ、我らに何を望むのですか? この国の未来に、どんな試練が待つのですか?」


沙耶の声が、幻視の中で応える。


「……忘却の闇はなお深し。だが、魂を重ねし者たちよ、恐れるな。祈りと誓いが新たな光となり、闇を切り裂く。王子よ、汝の血脈に眠る力を覚醒せよ。巫女よ、祓いの舞で道を開け。記憶の橋よ、過去と未来をつなげ」


悠馬が石板を胸に、震える声で尋ねる。


「僕たちは、どうすれば“未来の扉”を開けるのですか?」


沙耶の声が、さらに深く響く。


「……恐れるな。魂の契りを信じ、祈りを重ねよ。やがて、白き鳥が天を翔ける時、真の光が降り注ぐ。王子と巫女、記憶の橋――三つの魂が重なりし時、ムーの影は祓われる」


カナエが涙ぐみながら呟く。


「……私たちが出会った意味、全部ここに繋がってたんだね」


涼太が古文書を掲げて締めくくる。


「神話も現実も、魂の契りと祈りで未来が変わる。僕たちも、最後まで信じて進もう」


沙耶はゆっくりと意識を戻し、消え入りそうな声で微笑む。


「……神の声は、時に厳しく、時に優しい。でも、未来を切り拓くのは、私たち自身の魂です」


稜真が力強く応じる。


「僕は、王子として、巫女と共に歩む。どんな闇が来ても、必ず光を見つけ出す」


悠馬たちは、神憑りの夜に新たな決意を胸に刻んだ。


蝋燭の火が静かに揺れ、夜は深まっていく――。

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