34話 「口寄せと魂の継承」
朝の光が差し込む拝殿の奥、祭壇の前に白い布が敷かれ、沙耶が静かに座していた。
“記憶の橋”の面々と王子・稜真は、息を呑みながらその様子を見守る。
カナエが小声で囁く。
「……これが“口寄せ”の儀式。巫女が死者や祖霊の声を伝えるって、民俗学の本で読んだことがあるけど、実際に目の当たりにするのは初めて……」
涼太が古文書を手に、熱を込めて語る。
「イタコやオガミサマも、口寄せで亡き人や神の言葉を伝える。日本では古来、巫女が“魂の橋渡し”を担ってきた。神託だけじゃなく、祖先の記憶や未練も受け止める役目だったんだ」
レナがタブレットで記録しながら補足する。
「口寄せは、ただの霊媒じゃない。巫女自身の魂を“器”にして、時に自分の意識すら曖昧になるほど深く没入する。だからこそ、言葉に重みが宿るのね」
カオルが護符を握りしめて見つめる。
「魂の声を聞くって、並大抵のことじゃねぇ。巫女は自分の命を削ってでも、過去と今をつなごうとする。だから“継承”の儀式なんだ」
沙耶が静かに鈴を振り、祝詞を唱え始める。
その声は次第に低く、太古の響きを帯びていく。
やがて、沙耶の口から、普段とは異なる声が紡がれた。
「……我は、遠き世の祖霊なり。巫女の器を借りて、今ここに現れる。王子よ、記憶の橋の者たちよ、魂の契りを果たす時が来た」
稜真が膝を進め、厳かに頭を垂れる。
「祖霊の御声、確かに承りました。王家の血脈として、魂の誓いを新たに致します」
悠馬が石板を掲げ、沙耶に向かって問いかける。
「あなたは、何を伝えたいのですか? 僕たちの“記憶の橋”の旅と、どんな意味があるのですか?」
沙耶の口を通して、祖霊の声が続く。
「忘却の闇が、再び世を覆わんとしている。だが、巫女と王子、記憶の橋の者たちが魂を重ねるとき、古き契りは新たな光となる。過去を恐れず、未来を信じよ。魂の継承こそ、真の神託なり」
カナエが感極まったように言う。
「……魂の継承。私たちが今ここにいるのも、誰かが祈りや記憶を残してくれたからなんだね」
涼太が頷き、古文書を掲げる。
「神話も、歴史も、全部“語り継ぐ”ことで生き続ける。巫女や王子は、その“語り部”でもあったんだ」
レナがしみじみと語る。
「現代の私たちも、SNSや記録媒体で“魂の声”を残せる。形は違っても、“継承”の本質は変わらないのかもしれない」
沙耶がゆっくりと意識を戻し、微笑む。
「魂の声は、時を超えて響きます。私たち巫女は、その“橋”となるために生きている。王子も、皆さんも、それぞれの“記憶の橋”を未来へ繋いでください」
稜真が力強く応じる。
「僕たちは、過去と未来を結ぶ“魂の契り”を果たします。ムーの影に負けず、ヤマトの光を継ぐために」
悠馬は石板を胸に、仲間たちと誓う。
「僕たちも、魂の継承者として、記憶の光を未来へとつなげていく!」
祭壇の鈴が静かに鳴り、朝の光が拝殿を満たした――。




