33話 「神楽の舞と神託の言葉」
朝もやのなか、古社の拝殿に静寂が満ちていた。
巫女・沙耶が白装束のまま、鈴を手に立つ。
“記憶の橋”の一行と王子・稜真は、息を呑んでその姿を見守っていた。
カナエがそっと囁く。
「……これが“神楽”の始まり。神話の時代、天岩戸の前でアメノウズメが舞った――その伝承が、今も生きてるんだね」
涼太が古文書を手に熱く語る。
「神楽の語源は“神座”、神の宿る場所。巫女が舞うことで、神をこの場に降ろし、神懸かりになって神託を伝える……古代神道の最も大切な儀式だった」
レナがタブレットを操作しながら補足する。
「巫女舞は、ただの芸能じゃない。神を身に憑依させる“シャーマニズム”の儀式。弥生時代には、巫女が国家の中心になったとも言われてる。舞は、魂の浄化と祈りの言葉そのものなの」
カオルが護符を握りしめ、沙耶を見つめる。
「舞の動き、鈴の音、すべてが“神を迎えるための浄め”だ。神楽は、神と人が交わる“扉”なんだな」
沙耶がゆっくりと鈴を振り、舞い始める。
白い袖が朝日に透け、鈴の音が静かに響く。
その舞は、右回り左回りと交互に旋回し、やがて沙耶の動きは激しくなっていく。
アレックスが息を呑む。
「……まるで別世界だ。舞ってるうちに、沙耶さんの顔つきが変わっていく。あれが“神懸かり”……?」
やがて沙耶の瞳が遠い光を宿し、低く澄んだ声が響く。
「……魂をつなぐ者たちよ。王子よ。記憶の橋の者たちよ。今こそ古き契りを新たにせよ。ムーの影を祓い、ヤマトの光を継ぐべし」
稜真が静かに立ち上がり、沙耶に向かって頭を垂れる。
「巫女と王子の魂の契り――神話の時代から続く儀式。今日、ここに新たな誓いを立てよう」
悠馬が、二人の姿に目を奪われながら問いかける。
「巫女の舞や神託は、なぜ時代を超えて続くの? 僕たちの“記憶の橋”の旅と、どうつながるんだ?」
沙耶が舞を止め、優しく微笑む。
「神楽の舞は、神を迎え、魂を浄め、祈りを言葉にする儀式です。巫女は神の声を伝える器。王子は神の血を引く者。二つの魂が重なることで、神話の力が現実に蘇る。失われた記憶も、未来への祈りも、現実の力になるのです。
稜真が、真剣な眼差しで言葉を重ねる。
「神が児童や若者の姿で現れる“王子信仰”も、巫女の活動とともに時代を覚醒させる託宣の象徴だった。巫女と王子が出会うとき、新しい時代が始まる」
カナエが感極まったように言う。
「魂の契り……神話も現実も超えて、人と人、時代と時代をつなぐ“祈り”なのね」
涼太が頷き、古文書を掲げる。
「卑弥呼も、タマヨリビメも、神功皇后も……巫女は時代を超えて神と人をつなげてきた。王子は新たな時代の象徴。今、僕たちもその流れに加わるんだ」
沙耶と稜真は悠馬たちに向き直り、静かに手を差し伸べた。
沙耶「さあ、魂の契りを。あなたたちの“記憶の光”を、私たちの祈りに重ねてください」
稜真「未来を切り拓くのは、今ここにいる私たち全員の“魂”だ」
悠馬は石板を掲げ、仲間とともに誓いの言葉を重ねた。
「僕たちは“記憶の橋”として、巫女と王子の魂の契りを受け継ぐ。失われた記憶も、未来への祈りも、すべてをつなげてみせる!」
神楽の舞と鈴の音、朝日とともに、新たな魂の誓いが結ばれた――。




