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32話 「巫女神と王家の血脈」

境内に朝日が差し込み、霧がゆっくりと晴れていく。

悠馬たち“記憶の橋”の一行は、巫女・沙耶と王子・稜真を囲んで静かに座していた。

神託の余韻が残る空気の中、カナエが口を開く。


「巫女って、ただの神社の奉仕者じゃないんだね。神話の時代から、特別な役割を持っていた……。アメノウズメやククリヒメ、タマヨリヒメ――みんな、神と人を繋ぐ“巫女神”だった」


涼太が古文書を手に、熱を込めて語る。


「アメノウズメは天岩戸の前で舞い、アマテラスを誘い出した。ククリヒメはイザナギとイザナミの仲裁役。タマヨリヒメは神武天皇の母であり、賀茂神社の縁起にも登場する。巫女神は、神の意志を人に伝え、時に神の子を宿す“器”でもあったんだ」


レナがタブレットで資料を映しながら補足する。


「神婚や処女懐胎の伝説は、世界中にあるけど、日本の巫女神は“水”や“霊”と深く結びついている。賀茂神社のタマヨリヒメは、川を流れる丹塗矢を拾って神の子を宿した。水の女神、豊穣の象徴でもあるの」


カオルが護符を握りしめ、沙耶を見つめる。


「巫女は、神の声を伝えるだけじゃねぇ。時には神の血を未来へつなぐ“母”になる。神代文字で記された祈りや誓いも、全部、魂を継ぐためのものだったんだろうな」


沙耶が静かに語り始める。


「私たち巫女は、神の声を伝える器であり、魂をつなぐ“橋”です。神話の巫女たちは、時に神の子を宿し、時に国の安寧を祈り、時に災厄を祓いました。私もまた、その血脈と祈りを受け継いで生きています」


稜真が一歩前に出て、沙耶に向き直る。


「王子信仰もまた、神が児童や若者の姿で現れる伝統。熊野の五所王子、春日明神の若王子……巫女と王子が出会うとき、時代が動く。僕も王家の末裔として、魂の契りを果たす覚悟がある」


悠馬が、二人の姿に目を奪われながら問いかける。


「巫女の血脈と王子の誓いは、どうして現代に甦るの? “記憶の橋”の旅と、どうつながるんだ?」


沙耶が優しく微笑む。


「神話の時代から、巫女と王子は“新しい時代”を開く鍵でした。神の声を聞く者と、神の血を継ぐ者――二つの魂が重なることで、失われた記憶も、未来への祈りも、現実の力になるのです」


稜真が、真剣な眼差しで答える。


「ムーの影が再び現れるなら、ヤマトの光を継ぐのは我々だけではない。“記憶の橋”の君たちと、巫女と王子――すべての魂が契り合うことで、初めて“未来”が開かれる」


カナエが感極まったように言う。


「……巫女の血脈も、王子の誓いも、神話も現実も超えて、人と人、時代と時代をつなぐ“祈り”なんだね」


涼太が頷き、古文書を掲げる。


「ウズメの子孫が宮廷祭祀の神祇官となり、稗田阿礼が『古事記』を編んだ。巫女の霊力は、この国の歴史そのものなんだ」


沙耶と稜真は悠馬たちに向き直り、静かに手を差し伸べた。


沙耶「さあ、魂の契りを。あなたたちの“記憶の光”を、私たちの祈りに重ねてください」


稜真「未来を切り拓くのは、今ここにいる私たち全員の“魂”だ」


悠馬は石板を掲げ、仲間とともに誓いの言葉を重ねた。


「僕たちは“記憶の橋”として、巫女の血脈と王子の誓いを受け継ぐ。失われた記憶も、未来への祈りも、すべてをつなげてみせる!」


朝日が境内を照らし、鈴の音とともに新たな契りが結ばれた――。

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