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31話 「神降ろしの夜明け」

夜明け前の静寂に包まれた山里。霧が立ちこめる参道を、悠馬たち“記憶の橋”の一行は、古社の境内へと歩みを進めていた。

鳥居をくぐると、白い装束に緋袴をまとった巫女――沙耶が、静かに待っていた。


カナエが息を呑み、囁く。


「……あの人が“神託の巫女”……。空気が張り詰めてる。まるで、神話の時代に迷い込んだみたい」


涼太が古文書を手に、興奮を抑えきれず語る。


「巫女は、神楽を舞い、神託を伝える存在。天岩戸の前で舞ったアメノウズメ、神武天皇の母・タマヨリヒメ、イザナギとイザナミを和解させたククリヒメ……。神話の巫女たちは、神と人を繋ぐ“橋”だった」


レナがタブレットで沙耶の姿を記録しながら言う。


「古代の巫女は、神懸かりし、神の声を伝え、時に国を動かした。卑弥呼も、神功皇后も、神託を受けて歴史を変えた。今、私たちの目の前に、その系譜が生きている……」


カオルが護符を握りしめ、沙耶の前に進み出る。


「……本物の霊力を感じる。神降ろしの儀式、現代にも残ってるけど、ここまで空気が変わるのは初めてだ」


沙耶は一礼し、鈴を手に舞い始める。

白い袖が朝の光に透け、鈴の音が静かに響く。

その舞は、どこか恍惚とした神遊びのようで、空気が澄み渡り、木々さえ息を潜めて見守っている。


アレックスが小声で言う。


「……すげぇ。舞ってるうちに、まるで別人みたいになっていく。あれが“神懸かり”ってやつか?」


沙耶の瞳がふいに遠い光を宿し、低く澄んだ声が響く。


「……光の王子よ。記憶の橋の者たちよ。ムーの影が再び揺らぐ時、ヤマトの光と魂の契りを結ぶべし」


悠馬が驚き、思わず声を上げる。


「今の声……沙耶さん、あなたは……?」


沙耶は舞を止め、静かに微笑む。


「私は“神託の巫女”。神の声を伝える器。あなたたちの旅路に、神々の加護と導きを授けるためにここにいる」


カナエが一歩前に出て尋ねる。


「巫女は、どうして神の声を聞けるの? どうやって神とつながるの?」


沙耶は静かに答える。


「巫女は、心身を清め、舞や祈りで“神降ろし”の儀式を行います。神は、清らかな器を通してこの世に降りる。舞も、言葉も、すべては神と人をつなぐ“橋”なのです」


涼太が感心して頷く。


「古代の巫女は、祈祷や占い、神託を伝え、時には国を治めるほどの力を持っていた。時代が変わっても、神と人の“橋”であることに変わりはないんだな」


カオルが護符を空に掲げる。


「神降ろし、神懸かり、口寄せ……全部、神の意志を伝えるための“技”だ。巫女は神の言葉を人に伝える“生きた神託”なんだ」


そのとき、境内の奥からもう一人の影が現れる。

白い装束の少年――王子・稜真が、沙耶に一礼し、悠馬たちの前に進み出る。


稜真が静かに語る。


「私は“王家の末裔”。古代の契りにより、巫女と王子は運命を共にする。ムーの影が現れる時、再び“魂の誓い”を結ぶのが我々の役目だ」


悠馬が稜真を見つめ、決意を込めて言う。


「僕たちも“記憶の橋”として、神話の未来を切り拓く。巫女と王子の誓い、その意味を知りたい」


沙耶が優しく微笑む。


「すべては“神託”の導き。あなたたちの旅は、今ここから新たな章へと進むのです」


朝日が境内を照らし、鈴の音とともに新たな物語が始まった――。

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