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27話 「白鳥の飛翔と未来の文字」

能褒野の地を離れ、悠馬たちは一路、武蔵の山々へと向かった。

彼らの目的は、ヤマトタケルが甲を置いたと伝わる武甲山。その山頂には、苔むした岩に奇妙な神代文字が刻まれているという噂が残っていた。


カナエが地図を広げ、興奮気味に語る。


「武甲山は、ヤマトタケルが東征の帰途に甲冑を置いた場所って伝説があるの。しかも、その岩に“唐の文字なき折からなれば、御手鉾を以て神代の文字をきりつけたまひてあり”って記録が残ってる。つまり、漢字が伝わる前の日本で、神代文字が本当に使われていた証拠かもしれないのよ」


涼太が古文書をめくり、熱を込めて続ける。


「武甲山だけじゃない。青梅の御嶽神社や、各地の“甲”や“鎧”の地名も、ヤマトタケルが武具を納めた伝説に由来してるんだ。これって、ただの神話じゃなくて、古代の人々が“記憶”を地形や文字に刻み込んだ痕跡なんだと思う」


レナがタブレットで資料を検索しながら言う。


「神代文字で書かれた社伝や伝承は、長野や関東の神社にも残ってる。たとえば大御食神社の社伝は阿比留草文字で記されているし、草薙剣を祀る熱田神宮も、剣と文字の両方を御神体として大切にしてきた」


カオルが護符を握りしめ、山の空気を吸い込む。


「神代文字は、祈りや誓いを“未来”に託すための道具だ。英雄の伝説も、文字がなければ消えてしまう。俺たちが今ここにいるのも、誰かが“魂の証”を残してくれたからだよな」


山頂の岩場にたどり着くと、悠馬の手の石板が淡く光り始める。

岩肌には、確かに見慣れぬ文字が刻まれていた。


悠馬が息を呑む。


「……これが、ヤマトタケルが刻んだ神代文字……?」


アレックスが感心して言う。


「まるで暗号みたいだな。けど、剣や鳥の形が隠されてる。英雄の証と、魂の飛翔の象徴か」


カナエが指でなぞりながら呟く。


「剣の名、祈りの言葉、そして“白鳥”……。タケルの魂は、死後に白鳥となって天に昇ったって伝説がある。大鳥神社や鷲神社、各地の白鳥伝承は、全部ここに繋がってる」


涼太が熱く語る。


「ヤマトタケルは、父に疎まれ、都を追われ、戦いに明け暮れた。だけど、最期に残したのは剣でも武勲でもなく、“未来への祈り”だった。神代文字で刻んだのは、忘却に抗う魂の叫びだったんだ」


そのとき、悠馬の石板が強く輝き、夢の中のタケルの声が響く。


「私は、東の果てで倒れ、白鳥となって天に昇った。だが、魂は未だにさまよっている。お前たちの時代に、神代文字の“未来”を託す。記憶の橋となり、希望をつなげ」


悠馬が静かに誓う。


「タケルの魂、神代文字の祈り――僕たちが必ず未来へと受け継ぐ。英雄の遺志も、文字の力も、現代の光に変えてみせる!」


その瞬間、山頂の空に白鳥が舞い上がり、遥かな空へと消えていった。

悠馬たちは、太古の英雄の魂と、神代文字が指し示す“未来”を確かに感じていた。

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