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25話 「祈りの歌と魂の継承」

薄曇りの空の下、悠馬たちは三重県の能褒野古墳に立っていた。

そこはヤマトタケル終焉の地――静かな風が、草の海を渡っていく。


カナエが、手帳を胸に抱きしめて呟く。


「ここが……ヤマトタケルが最期を迎えた場所。伝説じゃ、彼はこの地で倒れ、白鳥となって天に昇ったとされているのよね」


涼太が古文書を開き、熱を込めて語る。


「伊吹山で神の怒りを買い、病に倒れたタケルは、能褒野まで命からがら辿り着いた。『古事記』や『日本書紀』には、ここで国を偲ぶ歌を詠んだって記されてる」


レナがタブレットで歌のテキストを映し出す。


「“倭は国のまほろば たたなづく 青垣 山隠れる 倭し麗し”……。自分が生まれ育った大和を偲ぶ、切ない歌よ。英雄の孤独と望郷の想いが、胸に迫るわ」


カオルが護符を握りしめ、静かに言う。


「タケルは剣を置き、ただ歌い、祈った。神代文字で刻まれた“歌”は、魂を鎮め、死者を導く“呪詞”だった。ここに来て初めて、戦いの英雄から“祈りの人”になったんだ」


そのとき、悠馬の手の石板が淡く光り始める。

夢の中で、ヤマトタケルの姿が現れる。


タケルは、静かに語りかける。


「私は多くの敵を討ち、多くの地を巡った。だが、最期に残ったのは、剣でも武勲でもない。魂の奥底から湧き上がる“歌”と“祈り”だった。神代文字に託したのは、私の“想い”だ」


悠馬が問いかける。


「タケルはなぜ、歌を残したの?」


タケルは遠くを見つめる。


「言葉は、時を越えて魂をつなぐ。戦いも、死も、やがて忘れ去られる。だが、祈りの歌は、誰かの心に残る。神代文字で刻まれた歌は、未来への“橋”となるのだ」


アレックスが感心して言う。


「英雄の最期が“歌”って、世界の神話でも珍しいよな。ギリシャの英雄も、北欧の戦士も、最後は剣を振るう。でもタケルは、歌い、祈り、魂を託したんだ」


レナがタブレットを見つめて呟く。


「ホツマツタエにも、タケルの辞世の歌が記されてる。“世を辞む文”という章で、祈りの言葉が神代文字で綴られているの。読み解くほどに、魂の奥に響いてくる」


カナエがしみじみと言う。


「神代文字の歌は、ただの記録じゃない。魂を癒し、死者を鎮め、生きる者に勇気を与える。現代の私たちも、その祈りを受け継げるのかもしれない」


涼太が古文書を掲げて締めくくる。


「ヤマトタケルの祈りの歌、神代文字の呪詞。どちらも、失われた魂を未来へつなぐ“継承”の証だ。僕たちが“記憶の橋”となり、祈りの歌を現代に響かせよう!」


悠馬は石板を胸に、仲間たちと誓う。


「タケルの魂、神代文字の祈り――必ず未来へと受け継いでみせる!」


能褒野の風に、白鳥の羽が一枚、静かに舞い降りた。

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