24話 「東征の道と忘却の扉」
薄曇りの空の下、悠馬たちは関東平野を見渡す丘に立っていた。眼下には、かつてヤマトタケルが東征の折に通ったとされる古道が、緑の中に細く続いていた。
カナエが地図を指差しながら語る。
「ここが、タケルが蝦夷征討のために進軍した道筋よ。父・景行天皇に命じられ、熊襲を討った後、さらに東国の平定を命じられた。都を離れ、戦いに明け暮れる日々……。タケルの心はどんなだったんだろう」
涼太が古文書を手に熱く語る。
「タケルは幼い頃から気性が激しく、兄をも手にかけてしまった。それを恐れた父に遠ざけられ、次々と無理難題を課せられる。熊襲討伐、東国平定――彼は“都に戻ることを許されぬ英雄”だったんだ」
レナがタブレットを操作し、古地図と伝承地を重ねる。
「この道の途中、各地に“ヤマトタケルが腰を下ろした石”や“剣を突き立てた岩”が伝わってる。地名や伝承に、彼の足跡が今も残ってるの。現地の古老たちは、タケルが神代文字で祈りや誓いを刻んだという話を語り継いでいるわ」
カオルが護符を握りしめ、遠くを見つめる。
「神代文字は、ただの記号じゃねぇ。旅の途中で、祈りや呪い、誓いを込めて岩や木に刻んだ。忘却されそうな記憶を、文字にして残す――それが“魂の防波堤”だった」
そのとき、悠馬の手の石板が微かに震え、淡い光が浮かび上がる。
夢の中で見たヤマトタケルの姿が、現実の空気の中に重なる。
タケルの声が静かに響く。
「私は、戦いの道を歩みながら、幾度も孤独に苛まれた。だが、忘れてはならぬ。剣の力も、言葉の力も、未来を守るためのもの。神代文字に刻んだのは、私の“誓い”だ。忘却の闇に呑まれぬよう、魂の証を残した」
悠馬が石板を見つめながら問いかける。
「タケルはなぜ、そこまでして記憶を残そうとしたの?」
タケルは遠くを見つめて答える。
「私の死後、時代は移ろい、英雄の名もやがて伝説となる。だが、記憶が失われれば、同じ過ちが繰り返される。神代文字は、未来への“扉”だ。忘却を祓い、希望を繋ぐための鍵なのだ」
アレックスが感心して言う。
「英雄の伝説も、文字がなければ消えてしまう。神代文字は、ただの古代の遺物じゃなくて、“魂の記録装置”だったんだな」
レナがタブレットを見つめ、呟く。
「現代にも、失われた記憶や物語がたくさんある。私たちがこうして調べて、記録して、語り継ぐことも、未来への扉を開く作業なんだと思う」
カオルが護符を掲げ、静かに誓う。
「俺たちが“記憶の橋”だ。神代文字の謎を解き明かし、タケルの誓いを現代に繋ぐ。それが、ムーの影に立ち向かう力になるはずだ」
涼太が古文書を掲げて締めくくる。
「ヤマトタケルの東征は、ただの戦いじゃない。孤独と苦悩、そして未来への祈りの旅だった。神代文字に託された“忘却の扉”を、僕たちが開く番だ!」
丘の上に、白鳥の羽が一枚、静かに舞い降りた――。




