表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/25

23話 「火と剣の誓い」

朝焼けの空を背に、悠馬たちは古代の剣を象った石碑の前に立っていた。

その石碑には、見慣れぬ文字がびっしりと刻まれている。

カナエが目を凝らしながら呟く。


「これ……神代文字? でも、剣の形と重なるように刻まれてる。何か意味があるのかしら」


涼太が古文書を広げて熱く語る。


「これは“草薙剣”の伝説を記したものだと思う。ヤマトタケルが東征に向かうとき、伊勢のヤマトヒメから授かった神器――天叢雲剣。スサノオがヤマタノオロチを倒したときに得た剣で、アマテラスから下賜された三種の神器の一つだ」


レナがタブレットで剣の伝承を検索し、画面を見せる。


「駿河の野で賊に囲まれ、野火に追い詰められたとき、タケルはこの剣で草を薙ぎ払い、火打石で逆に敵を焼き尽くした。それで“草薙剣”と呼ばれるようになったのよ」


カオルが護符を握りしめ、剣の前で低く呟く。


「剣はただの武器じゃねぇ。神器は“魂”そのものだ。神代文字で名を記すことで、剣に宿る神霊を呼び起こす――それが古代の“呪術”だった」


そのとき、悠馬の手の石板が淡く光り始める。

夢の中で聞いたヤマトタケルの声が、現実の空間に響く。


「かつて我は、剣に名を与え、魂を込めた。名を呼ぶことで、剣は主に応え、災厄を祓う。だが、慢心すれば、神器の加護は離れる。剣の力は、心の在り方にこそ宿るのだ」


悠馬は剣の石碑に手をかざし、神代文字をなぞる。


「“天叢雲剣、草薙剣”……この文字、ただの記録じゃない。祈り、誓い、そして呪文だ。古代人は、言葉で現実を動かそうとしたんだ」


アレックスが感心して言う。


「世界の英雄や神話も、みんな特別な武器を持ってるよな。インドラのヴァジュラ、ゼウスの雷霆、オーディンのグングニル、アーサー王のエクスカリバー……。剣は“資格”の証であり、失えば運命も尽きる」


カナエが静かに問いかける。


「でも、なぜヤマトタケルは最後に草薙剣を手放してしまったの?」


涼太が答える。


「伊吹山の神を討つとき、タケルは剣を妻ミヤズヒメに預けて出かけてしまう。自分の力を過信したのか、あるいは剣の重さに疲れたのか……。その結果、神の加護を失い、病に倒れてしまうんだ」


レナが資料を見せる。


「最期、彼は“剣の太刀、ああその太刀よ”と嘆いた。神器は英雄の魂そのもの。失えば、命も尽きる……」


カオルが護符を剣にかざし、強く言い放つ。


「神代文字に刻まれた“名”が、剣に魂を宿す。今も、御神体として祀られるのは、ただの鉄じゃなく、“祈り”そのものなんだ」


悠馬は石板を胸に、仲間たちを見渡す。


「ヤマトタケルの剣と魂、そして神代文字の祈り。僕たちは、その両方を受け継ぐ。神器の力も、言葉の力も、未来を切り拓く“誓い”になるはずだ」


その瞬間、剣の石碑が淡く光り、空に白い羽が舞い上がった。

悠馬たちは、太古の英雄の誓いと神代文字の祈りが、現代の自分たちの中に息づいていることを、確かに感じていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ