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22話 「英雄の影と神の言葉」

夜明け前の静寂の中、悠馬の夢は鮮烈だった。

霧に包まれた原野、遠くに聳える武甲山。その頂には、甲冑姿の若者――ヤマトタケルが立っていた。

彼の背後には、苔むした岩場。そこに刻まれた奇妙な文字が、かすかな光を放っていた。


タケルが振り返り、静かに口を開く。


「お前は“記憶の橋”か。ならば聞け。かつてこの山に登り、甲を置いたのは私だ。だが、真に残したかったのは“力”ではなく、“言葉”だ」


悠馬は岩場の文字に目を凝らす。


「この刻印……漢字じゃない。まるで、神代の……」


タケルは頷く。


「唐の文字が伝わる以前、我らは“神代文字”で思いを刻んだ。武甲山の岩に、御手鉾で記したのだ。忘却されることを恐れ、魂の証を残した」


悠馬は畏怖を込めて尋ねる。


「なぜ、文字を残したのですか?」


タケルは遠くを見つめる。


「武力だけでは、国は治まらぬ。言葉こそが、未来をつなぐ。私が討った東夷あずまえびすも、彼らの祈りや歌に耳を傾けた。だが、時代が下るにつれ、神代の言葉も、祈りも、忘れられていった」


夢から覚めた悠馬は、すぐに仲間たちを集めた。


カナエが、古地図を広げながら語る。


「武甲山の伝説、知ってる? ヤマトタケルが甲を置いた岩に、神代文字を刻んだって。山名の由来もそこから来てるの」


涼太が熱を込めて続ける。


「しかも、漢字伝来前の話だ。唐文字がなかった時代、神代文字で“魂”を刻んだってことだよ。今は石灰開発でその岩場は失われたけど、伝説は残ってる」


レナがタブレットで調べながら補足する。


「青梅の御嶽神社にも、ヤマトタケルが岩を祀った伝承がある。各地に残る“岩”や“山”の伝説は、神代文字や祈りと結びついているのかも」


カオルが護符を撫でて言う。


「神代文字は、ただの記号じゃねぇ。祈りや呪い、願いを込める“術”だった。書くことで魂を呼び起こす力があると信じられていた」


悠馬は、夢で見た岩場と同じ形の石板を取り出す。


「これが……タケルが残した神代文字?」


涼太が目を輝かせる。


「現存する神代文字は、ホツマツタエやヲシテ文字、カタカムナ、龍体文字……どれも規則性があり、母音と子音の組み合わせで成り立ってる。紀元前から続く日本語の原型だ」


レナが画面を見せる。


「ホツマツタエは48音、“ヨハネ”と呼ばれる配列。五十音に近いけど、順序や響きが独特。しかも、発音自体が場を清める力を持っていたっていうの」


カナエが驚きながら言う。


「つまり、神代文字は“祈りの道具”であり、“魂の記録”だったのね。ヤマトタケルは、武勇だけじゃなく、言葉の力を信じていた……」


そのとき、悠馬の手の石板が淡く光り、古代の響きが空間を満たす。


タケルの声が再び響く。


「忘れるな。剣の力も、言葉の力も、同じく“未来を守る盾”だ。神代文字を解き、魂の歌を呼び覚ませ。お前たちの時代にこそ、真の“光”が必要なのだ」


アレックスが感嘆の声を上げる。


「……神話が現実に呼びかけてる。俺たちが“記憶の橋”になる番だな」


カオルが護符を掲げる。


「神代文字の響き、確かに感じるぜ。これが本物なら、時代を超えて魂がつながるはずだ」


悠馬は強く頷いた。


「ヤマトタケルの遺志、神代文字の謎。両方を受け継いで、僕たちは未来への“記憶の橋”になる!」


窓の外には、再び白鳥の羽が舞い落ちていた――。

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