21話 「白鳥の予兆と神代の謎」
薄曇りの東京上空に、突如として白い羽が舞い降りた。
悠馬はその光景を見上げ、胸の奥にざわめきが広がるのを感じていた。
「……白鳥?」
カナエが隣で呟く。「こんな都心で、どうして……。ただの偶然じゃない気がする」
そのとき、涼太がスマートフォンを掲げて駆け寄ってくる。
「見てくれ! SNSが騒然だ。都内各地で“白鳥の羽”が降ってるって。しかも、古社や古墳、川沿いの公園――どこもヤマトタケル伝説の残る場所ばかりだ」
レナがタブレットを操作しながら、画面を悠馬に見せる。
「ほら、武蔵野、葛城、羽曳野……。全部、白鳥伝説やタケルの陵墓が伝わる土地よ。偶然じゃ片付けられない」
カオルが護符を握りしめて低く呟く。
「白鳥は魂の象徴だ。古代の人々は、死者の魂が鳥になって天に昇ると信じていた。ヤマトタケルも、死後に白鳥となって空を翔けたと伝わる……」
アレックスが空を見上げ、ぽつりと呟く。
「神話が現実に滲み出してきてる……そんな気がするぜ」
その夜、悠馬は不思議な夢を見る。
深い霧に包まれた湖畔、白い羽が舞い散る中、古代の衣をまとった若者が立っていた。
その瞳は、どこか哀しげで、強い意志を宿している。
「……あなたは?」
若者は静かに答える。
「私はヤマトタケル。かつて東国を駆け抜け、国を平定した者。だが、私の魂は未だに安らぎを得ていない。ムーの影が、再びこの国に忍び寄ろうとしている」
悠馬は驚き、問いかける。
「ムーの影? それは……」
タケルは頷く。
「忘却と絶望、古代から連なる“失われた記憶”の象徴だ。人々が歴史や祈りを忘れたとき、世界は闇に包まれる。だが、ヤマトの光――それは、困難を乗り越える知恵と勇気、そして絆の象徴なのだ」
彼は悠馬の手に、奇妙な石板を渡す。
「これは神代文字で記された“預言”だ。お前たちの時代で、この文字の意味を解き明かせ。“記憶の橋”となり、未来を切り拓け」
現実に戻ると、悠馬の枕元には、夢で見たのと同じ石板が置かれていた。
カナエが驚きの声を上げる。
「それ……本物の神代文字? 阿比留文字、ホツマ文字、カタカムナ……どれとも違う。新しい発見かも!」
涼太が興奮して覗き込む。
「神代文字は、ほとんどが偽書扱いされてる。でも、最近の研究じゃ、縄文時代の土器や石器に刻まれた記号が“原初の文字”だった可能性も指摘されてる。もしこれが本物なら、日本の歴史がひっくり返るぞ!」
レナがデータを解析しながら言う。
「この配列……単なる模様じゃない。音や意味を持つ体系的な構造がある。しかも、太陽や鳥、剣の象形が組み込まれてる」
カオルが護符をかざして言う。
「この石板、ただの遺物じゃねぇ。強い“気”を感じる。神代文字は、書くだけで霊的な力を呼び起こす“秘術”だったとも言われてる」
その瞬間、石板が淡く光り、部屋の空気が変わった。
アレックスが身構える。
「何かが始まる……。神話と現実が交わる時、“記憶の橋”の力が試されるんだ」
悠馬は石板を胸に、決意を新たにする。
「ヤマトタケルの魂が、現代に何かを託そうとしている。ムーの影に立ち向かうため、僕たちは“記憶の橋”となって、神代文字の謎を解き明かす!」
窓の外には、再び白い羽が静かに舞い降りていた――。