20話 「火の神の剣、再生の誓い」
東京の空に、再び不穏な赤い雲が立ちこめていた。
“記憶の橋”チームは、各地の火の儀式を止めたものの、カグツチ神話の再演を目論む勢力の動きが止まる気配はなかった。
カナエが、最新のニュースを読み上げる。
「今度は熊野の産田神社で、“火の剣”を祀る儀式が始まったって……。現地では、カグツチの血を引くと称する新たな“火守”が現れてるみたい」
涼太が、古文書をめくりながら顔をしかめる。
「カグツチは、イザナミを焼き、イザナギに斬られた。その首を落とした剣――“天之尾羽張”が、神話の中で最も重要な“火の剣”だ。もしそれが現代に蘇れば、破壊も再生も、すべてを決める力になる」
レナが、タブレットを操作して地図を拡大する。
「神社の地下に、古代の“火の神殿”がある可能性が高い。ネット上では“火の剣を手にした者が新たな神になる”って噂が広がってるわ」
カオルが護符を握りしめ、低く呟く。
「神話の剣が現実に現れたら、今までの比じゃねぇ災厄が起きる。だが、その剣は“祓い”と“再生”の両方を象徴するものでもある」
アレックスが拳を握る。
「今度こそ決着をつける時だ。“火の剣”を誰にも渡さず、未来への“記憶の光”に変える!」
その時、悠馬の石板が熱を帯び、黄金色の光が溢れ出した。
夢の中で、悠馬はカグツチの幻影と向き合う。
「カグツチ……あなたの剣は、何を切り拓くためにある?」
全身を炎に包んだ神は、静かに剣を掲げて語る。
『我が剣は、破壊と再生の境界を切り拓くもの。火は全てを祓い、灰の中から新たな命を生む。だが、制御を失えば、全てを無に還す災厄となる。最も恐れるのは、我が火が虚無の炎となり、誰の心にも届かぬことだ』
悠馬が問い返す。
「ならば、僕たち“記憶の橋”は、どうすればいい?」
カグツチは、剣を悠馬に差し出す。
『絆と祈りの中で剣を受け継げ。破壊の先に再生を、絶望の先に希望を――それが我が願い』
現実に戻ると、カナエが静かに言う。
「悠馬、あなたが“火の剣”を受け継ぐ時が来たのかもしれない」
涼太が力強く頷く。
「神話の再演は、俺たち自身の手で終わらせるしかない!」
レナがタブレットを掲げる。
「データも記憶も、祈りと絆があれば再生できる。私たちの“光”を剣に込めて!」
カオルが護符を空に掲げる。
「陰陽五行、再生の理。俺たちの“火”は、未来を切り拓くためにある!」
アレックスが叫ぶ。
「“記憶の橋”チーム、熊野へ出発だ!」
悠馬は石板を胸に、仲間たちとともに新たな“火の神殿”へと向かった。
熊野の産田神社は、深い森と霧に包まれていた。
悠馬たち“記憶の橋”チームは、夜明け前の静けさの中、神社の奥へと足を踏み入れる。
鳥居をくぐると、空気が一変し、古代の神域に迷い込んだような感覚に襲われた。
カナエが小声で囁く。
「ここが“火の剣”の眠る場所……。空気が重い。まるで神話そのものに包まれているみたい」
レナがタブレットを操作し、地下の構造を解析する。
「本殿の下に、人工的な空間がある。古代の“火の神殿”跡ね。そこに“剣”が……」
涼太が古文書を手に、慎重に進む。
「“天之尾羽張”は、イザナギがカグツチを斬った剣。だが、神話ではその剣からも新たな神が生まれた。つまり、破壊の象徴でありながら、再生の始まりでもある」
アレックスが前方を警戒しながら進む。
「敵がいる。気配が……」
そのとき、霧の中から白装束の一団が現れた。
彼らの中心に立つのは、長身で鋭い眼差しの若い男――火守・真焔。
その右手には、赤黒く輝く古代の剣が握られていた。
真焔が静かに語りかける。
「“記憶の橋”の者たちよ、よくぞ来た。これが“火の剣”――天之尾羽張。カグツチの血を引く者として、この剣を新たな神話の礎とする」
カオルが護符を構え、低く唸る。
「剣の“火”が……生きてる。あれはただの神器じゃねぇ、“意志”を持ってる!」
真焔は剣を掲げ、信者たちに呼びかける。
「破壊の後に、必ず再生がある。だが、再生は痛みと犠牲の上にしか生まれない。お前たちの“記憶”と“祈り”を、この火に捧げよ!」
信者たちが一斉に祝詞を唱え、剣の炎が激しく燃え上がる。
その炎は、まるで人々の“記憶”そのものを吸い込むように渦巻いていた。
カナエが叫ぶ。
「悠馬、あの剣が“記憶”を喰ってる! このままじゃ、また東京中が“灰”になる!」
悠馬は石板を胸に、真焔に向き合う。
「“火の剣”は、破壊だけじゃない。再生の光に変えるために、僕たちの“記憶”を重ねる!」
真焔が剣を振り下ろし、炎の波が襲いかかる。
「ならば見せてみよ! “記憶の橋”の力を!」
アレックスが前に出て仲間を庇い、カオルが護符で結界を張る。
レナがタブレットを掲げ、データの“祈り”を石板に送信する。
涼太が叫ぶ。
「悠馬、今だ! “記憶の光”を剣にぶつけろ!」
悠馬は石板を高く掲げ、仲間たちと声を合わせる。
「“記憶の橋”は、みんなの祈りだ!」
黄金色の光が剣の炎にぶつかり、空間が閃光に包まれる。
剣の炎が次第に鎮まり、真焔が膝をつく。
「……これが、“再生”の力か。お前たちの“記憶”は、火をも超えるのか……」
悠馬は静かに剣に手を添え、祈るように呟く。
「破壊の先に、必ず再生がある。火の神話も、僕たちの物語も、絆の中で生まれ変わる」
剣の炎が柔らかな光に変わり、神殿の闇を照らす。
信者たちの目に正気が戻り、静かに祈りを捧げる。
カナエがほっと息をつく。
「これで、また一つ“火の系譜”の連鎖を断ち切れたのかな」
涼太が空を見上げて呟く。
「灰の夜明け、か……。俺たちの物語は、まだ続く」
アレックスが拳を掲げ、カオルが護符を空にかざす。
レナが微笑み、悠馬は石板と剣を胸に抱きしめた。
「“火の剣”は、もう破壊だけのものじゃない。僕たちの“記憶の光”で、未来を切り拓く剣に変わったんだ」
熊野の森に、朝陽が差し込む。
“記憶の橋”チームの新たな旅が、また始まる――。




