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19話 「火の神の記憶、祓いと再生」

東京の街は、夜明けとともに静けさを取り戻しつつあった。

だが、悠馬たち“記憶の橋”チームの心は、再び新たな火の気配にざわめいていた。


カナエが、ニュース速報を読み上げる。


「関東各地の神社や古墳で、“火の浄化”を名乗る集団の動きが活発化してるわ。今度は“火産巣日神ほむすびのかみ”――カグツチそのものを祀る儀式が各地で行われてる」


涼太が古文書を指でなぞりながら言う。


「カグツチは、火の神であり、破壊と再生の象徴。母イザナミを焼き、父イザナギに斬られ、その血と遺体から新たな神々が生まれた。火の祓いと浄化、そして再生の力……神話そのものが現代に蘇ろうとしてる」


アレックスが警戒を強める。


「火の儀式が都市全体に広がれば、制御不能な災厄になる。だが、カグツチの本質は“破壊”だけじゃない。“再生”の神でもある」


レナがタブレットを操作しながら分析する。


「火の神を祀る神社――愛宕神社、秋葉神社、熊野の産田神社……そこに集まる信者たちが、祓いと再生の儀式を始めてる。ネット上でも“火の再生”を祈る声が急増してるわ」


カオルが護符を撫でながら呟く。


「火の神は“鍛冶”や“火山”、命の再生も司る。だが、暴走すれば全てを焼き尽くす。神話の“火”の恐ろしさは、制御できない情熱そのものだ」


その時、悠馬の石板が熱を帯び、黄金色の光とともにアマテの声が響く。


『悠馬……カグツチの炎は、破壊と再生、祓いと創造の両極。あなたが恐れるのは、火が虚無の炎となり、誰の心にも届かなくなること。だが、火は人の祈りと絆の中でこそ、真の力を発揮するのです』


悠馬は、夢の中でカグツチの幻影と対峙する。


「カグツチ……あなたは、なぜ祓いと再生を司るの?」


カグツチは、全身を炎に包み、剣を手に静かに語る。


『我は火の神、軻遇突智。母を焼き、父に斬られ、その血と遺骸から新たな神々を生んだ。破壊は終わりではない。火は全てを祓い、浄化し、初期状態に戻す。そして、灰の中から新たな命が芽吹くのだ』


悠馬が問いかける。


「ならば、僕たちはどうすれば“火”を災厄ではなく、再生の光にできる?」


カグツチは、剣を掲げて答える。


『火は制御を失えば全てを焼き尽くす。だが、祈りと絆の中で受け継がれれば、鍛冶の炎となり、命を育む力となる。お前たち“記憶の橋”が、火を未来へ繋げ』


現実に戻ると、仲間たちが静かに見守っていた。


カナエが、そっと手を差し伸べる。


「悠馬、あなたの“記憶の光”は、もう一人のものじゃない。私たち皆の祈りと絆が、火を制御する力になる」


レナがタブレットを掲げて言う。


「データも記憶も、祈りと共にある限り、何度でも再生できる。私たちの絆があれば、“火”も希望に変えられる」


涼太が拳を握る。


「神話の再演なんて、俺たちが終わらせる!」


カオルが護符を空に掲げる。


「陰陽五行、再生の理。俺たちの“火”は、絆のためにある!」


アレックスが力強く言う。


「“記憶の橋”チーム、再出動だ!」


悠馬は石板を胸に、仲間たちとともに新たな火の儀式の地へと駆け出した。


悠馬たち“記憶の橋”チームは、都内の愛宕神社へと急いだ。

境内には、白装束の信者たちが集い、火の神カグツチを讃える古代の祝詞を唱えている。

その中央に立つのは、先ほど炎の中から現れた火守・白狐だった。


白狐は静かに手を掲げ、信者たちに語りかける。


「火の神を讃えよ。破壊と再生の炎は、古より人の魂を祓い、浄化し、命の輪廻を繋いできた。だが、制御なき炎は、全てを無に帰す災厄となる。今こそ、真の“火の再生”を示す時だ」


信者たちが一斉に火を囲み、祈りを捧げる。

その炎は、まるで生き物のように渦を巻き、空高く立ち昇っていく。


カナエが息を呑む。


「この炎……普通じゃない。人々の“記憶”や“想い”が、火に吸い込まれていく……」


レナがタブレットを操作しながら分析する。


「デジタルデータまで消えていく。まるで“現代の記憶”すら灰に還そうとしてるみたい」


涼太が古文書を掲げ、叫ぶ。


「神話の“火の祓い”だ! だが、祓いの先には必ず“再生”がある。俺たちの“記憶”を、火に飲まれさせるな!」


アレックスが前に出て、白狐に叫ぶ。


「お前の“火”は、ただの破壊じゃないのか? 再生のために何を望む!」


白狐は仮面を外し、静かな目で悠馬たちを見つめる。


「私は“火”の本質を問い続けてきた。破壊の先に再生があると信じてきた。だが、現代の人々は“火”を恐れ、避け、忘れようとしている。だからこそ、記憶ごと“火”に捧げ、真の再生を求めるのだ」


悠馬が石板を胸に進み出る。


「火は恐ろしい。でも、火がなければ命も文化も生まれなかった。僕たちは、火の恐怖も温もりも、すべて“記憶”として受け継いできた。祓いも再生も、絆の中でしか意味を持たない!」


白狐が静かに微笑む。


「ならば見せてみよ。“記憶の橋”の力を」


カオルが護符を掲げ、涼太が祝詞を唱え、レナがデータのバックアップを起動する。

アレックスが信者たちの間を駆け、混乱を防ぐ。


悠馬は、仲間たちの想いを石板に重ねて叫ぶ。


「“記憶の橋”は、みんなの祈りだ!」


その瞬間、石板が黄金色に輝き、境内の炎が虹色に変わる。

信者たちの目に正気が戻り、火の中から新たな芽吹きが現れる。


白狐は静かに頭を垂れる。


「……お前たちの“記憶”は、火をも超えるのか。私は、再び旅に出る。だが、カグツチの火は、まだ終わらぬ。再生の神話は、これからだ」


白狐は静かに去り、儀式は終息した。


カナエがほっと息をつく。


「これで、少しは“火の系譜”の連鎖を断ち切れたのかな」


悠馬は石板を見つめ、静かに答える。


「火の神話は、終わらない。でも、僕たちの“記憶の光”があれば、何度でも再生できる。破壊も、恐れも、全部受け入れて、未来へ繋げるんだ」


涼太が空を見上げて呟く。


「灰の夜明け、か……。俺たちの物語は、まだ続く」


東京の空に、朝陽とともに新たな希望が差し込む。

“記憶の橋”チームの闘いと祈りは、これからも続いていく――。

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