表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/101

18話 「火の神の影、再生の誓い」

東京の朝陽が灰色の街を照らし始めたその日、悠馬たち“記憶の橋”チームは、再生の兆しと新たな不安を胸に、地上で束の間の休息を取っていた。

だが、静けさは長くは続かなかった。


カナエが、スマートフォンを見つめて顔を曇らせる。


「また“火の浄化”を名乗るグループが動き出したわ。今度は関東近郊の神社や古墳で、火を使った儀式の痕跡が見つかってる」


レナが地図を拡大しながら分析する。


「これ、ただの模倣犯じゃない。儀式のパターンが、カグツチ神話の“再生”の段階に沿ってる。誰かが意図的に“火の神”を現代に蘇らせようとしてるわ」


涼太が、古文書をめくりながら声を潜める。


「カグツチ……火の神は、母イザナミを焼き、父イザナギに斬られた。その血と遺体から新たな神々が生まれた。つまり、破壊の後には必ず“再生”が来る。今の東京も、神話の再演を強いられてるのかもな」


カオルが護符を撫でて言う。


「火の神は祓いと浄化の神でもある。だが、暴走すれば全てを焼き尽くす。神話の“火”が現実に蘇れば、何が起きるか分からねぇ」


アレックスが拳を握る。


「烈や燼、紅蓮童子、鏡火……奴らの“火”は倒した。でも、カグツチの本体が目覚めたら、今までの比じゃない。俺たちの“記憶の光”だけで勝てるのか?」


その時、悠馬の石板が熱を帯び、黄金色の光とともにアマテの声が響く。


『悠馬……“火の神”カグツチの力は、破壊と再生の両極。あなたたちが恐れるのは、火が制御を失い、ただの災厄となること。だが、火は祓いと創造の力でもある。新たな神話を生み出すのは、あなたたちの選択です』


悠馬は、夢の中でカグツチの幻影と対峙する。


「カグツチ……あなたは何を望む?」


炎を纏った神は、静かに語りかける。


『我は火の神、軻遇突智。破壊は再生の母。だが、制御を失えば全てが無に還る。最も恐れるのは、己の火が虚無の炎となり、誰の心にも届かぬことだ』


悠馬が問い返す。


「ならば、僕たちの“記憶の橋”は、あなたの火をどう受け継げばいい?」


カグツチは、剣を掲げて答える。


『絆と祈りの中で火を継げ。破壊の後に必ず再生を――それが我が願いだ』


現実に戻ると、仲間たちが悠馬の異変に気づき、集まってくる。


カナエが心配そうに尋ねる。


「悠馬、今のは……?」


悠馬は、静かに石板を撫でながら言った。


「カグツチは、破壊の神であり再生の神でもある。最も恐れているのは、自分の火が孤独な災厄になること――誰にも受け入れられず、虚無に消えることだ」


レナが真剣な目で頷く。


「だったら、私たちが“火”を制御し、再生の光に変えるしかない。新たな“火の儀式”を止めよう」


涼太が拳を握る。


「神話の再演なんて、俺たちが終わらせる!」


カオルが護符を空に掲げる。


「陰陽五行、再生の理。俺たちの“火”は、絆のためにある!」


アレックスが力強く言う。


「“記憶の橋”チーム、再出動だ!」


その時、遠くでサイレンが鳴り、東京の空に新たな炎柱が立ち上る。

悠馬は石板を胸に、仲間たちとともに駆け出した。


「カグツチの火を、絶望の炎にしない。必ず、再生の神話へと導く!」


東京の街に、新たな闘いの火蓋が切って落とされた――。




東京の空に立ち上る炎柱は、ただの火災ではなかった。

街のあちこちで、古代の火祭りを模した奇妙な儀式が始まり、人々は呪文のような言葉を唱えていた。

悠馬たち“記憶の橋”チームは、炎の発生源へと急いだ。


レナがタブレットを操作しながら叫ぶ。


「この儀式、ネット上で急速に拡散してる。“火の再生”を信じる新たな信者たちが、各地で同時に動き出してる!」


カナエが息を切らしながら、現場に駆け込む。


「見て、あの炎……ただの火じゃない。赤と金色が混じってる。まるで“記憶の光”と“破壊の火”が混ざり合ってるみたい」


涼太が、古文書を片手に呟く。


「神話の再演……“火の神”が現代に蘇ろうとしてるのか」


その時、炎の中心から一人の男が現れた。

長身で白い法衣、顔には狐の面――新たな“火守”の幹部、火守・白狐びゃっこだった。


白狐は静かに手を掲げ、周囲の信者たちを導く。


「火の神カグツチの意志を継ぐ者たちよ。破壊の炎は、再生の光とならねばならぬ。だが、再生は痛みと犠牲の上にしか生まれない。お前たちの“記憶”を、火に捧げよ」


信者たちが一斉に火の中へ祈りを捧げる。

その炎の中から、かすかに人々の記憶や想いが立ち昇っていくのが見えた。


アレックスが歯を食いしばる。


「このままじゃ、みんなの“記憶”が炎に呑まれてしまう!」


カオルが護符を構え、叫ぶ。


「陰陽破魔――“結界展開”!」


だが、白狐は手を振り、結界を赤い炎であっさりと打ち破る。


「無駄だ。“火”を拒絶する結界は、必ず“火”に呑まれる。受け入れ、共に燃えよ」


悠馬は石板を胸に、白狐に向き合う。


「火は、破壊だけじゃない。祈りと絆があれば、再生の光になるはずだ!」


白狐が仮面越しに微笑む。


「ならば見せてみよ。“記憶の橋”の力を」


悠馬は、仲間たちに呼びかける。


「みんな、自分の大切な記憶を思い出して! 家族や友だち、夢や祈り……それをこの炎に重ねて!」


レナがタブレットを掲げ、カナエが胸に手を当て、涼太、カオル、アレックスもそれぞれの想いを心に刻む。


「“記憶の橋”は、みんなの光だ!」


その瞬間、炎の色が変わり、金色の光が赤い炎を包み込む。

信者たちの目に正気が戻り、炎の中から新たな芽吹きが現れる。


白狐は静かに仮面を外し、素顔を見せた。

その顔には、深い悲しみと安堵が浮かんでいた。


「……お前たちの“記憶”は、火をも超えるのか。だが、カグツチの火は、まだ終わらぬ。再生の神話は、これからだ」


白狐は炎の中に消え、儀式は静かに終息した。


悠馬は、仲間たちと肩を寄せて空を見上げる。


「火の神の影は、まだ消えていない。でも、僕たちの“記憶の光”があれば、何度でも再生できる」


カナエが微笑む。


「そうよ。神話は終わらない。私たちが歩き続ける限り、未来はきっと変えられる」


東京の空に、朝陽とともに新たな希望が差し込む。

“記憶の橋”チームの闘いと祈りは、これからも続いていく――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ