17話 「灰の夜明け、記憶の継承」
東京駅地下、かつて“炎の深淵”と呼ばれた祭壇跡。
闘いの余韻がまだ残る空間で、悠馬たち“記憶の橋”チームは静かに肩を寄せ合っていた。
石板は微かな光を宿し、焦げ跡の中に新たな草の芽が顔を出している。
「……やっと、終わったのかな」
涼太が、疲れた声で呟く。
アレックスが額の汗を拭いながら、周囲を見渡す。
「いや、終わってはいない。燼も紅蓮童子も、鏡火も倒したが……“火の系譜”は、まだどこかで息をしている気がする」
レナがタブレットを修理しながら、苦笑する。
「まさか電子機器まで“灰化”されるとは思わなかったわ。でも、データのバックアップは守った。私たちの記録は消えてない」
カナエが、石板の光に手をかざす。
「この光も、前よりずっと優しい。きっと“破壊”の炎だけじゃなく、“再生”の力も受け継いだんだわ」
カオルが護符を撫でながら、低く呟く。
「火の神は、破壊と再生の両面を持つ。だが、どちらかに偏れば必ず歪みが生まれる。神話の時代から続く“恐れ”は、今も変わらねぇ」
悠馬は、石板を胸に抱きしめる。
「……火を操る神が最も恐れること。それは、自分の火が制御を失い、ただの災厄になること。再生も希望も生まない、虚無の炎になることだと思う」
その時、石板が淡く光り、アマテの声が響く。
『悠馬……よくぞここまで辿り着きました。火の神カグツチの本質は、破壊と再生。あなたが“記憶の橋”として選んだ道は、神話の未来をも照らします』
悠馬は静かに目を閉じ、夢の中でアマテと対話する。
「アマテ……僕は、闘いの中で何度も迷った。火の力に呑まれそうになった。だけど、仲間の記憶や絆が、僕を救ってくれたんだ」
アマテの姿が、柔らかな光の中に浮かぶ。
『あなたの“恐れ”も“弱さ”も、神でさえ抱えるものです。大切なのは、それを認め、乗り越え、他者と分かち合うこと。火は一人では制御できません。多くの手と心があってこそ、再生の光となるのです』
悠馬が、そっと石板に手を当てる。
「僕は“記憶の橋”として、これからも歩み続けます。火の神話も、島の祈りも、仲間の想いも、全部未来へ繋げたい」
アマテが優しく微笑む。
『その決意こそが、新たな神話を生むのでしょう。さあ、目覚めなさい。新しい夜明けが、あなたたちを待っています』
現実に戻ると、仲間たちが静かに見守っていた。
カナエが、柔らかく微笑む。
「悠馬、あなたの“記憶の光”は、もう一人のものじゃない。私たち皆の光よ」
レナが、修理したタブレットを差し出す。
「データも記憶も、何度でも復元できる。私たちの絆があれば、どんな“灰”からも立ち上がれる」
涼太が、拳を掲げる。
「さあ、地上に戻ろうぜ! 俺たちの新しい伝説は、これからだ!」
カオルが、護符を空に掲げる。
「陰陽五行、再生の理――“火”も“水”も“土”も、命を育てるためにある。俺たちの物語は、まだまだ続くぜ」
アレックスが、仲間たちをまとめて立ち上がる。
「“記憶の橋”チーム、出発だ!」
悠馬は、石板を手に、仲間たちと共に階段を登り始めた。
地上の空は、夜明けの光に包まれ始めていた。
地上に出ると、東京の夜明けは静かで、どこか新しい空気に満ちていた。
悠馬たちは、互いの顔を見合わせ、無言のまま歩き出す。
焦げ跡の残る駅前の広場には、昨夜の戦いの痕跡がまだ生々しく残っている。
カナエが小さく息をついた。
「……私たち、本当に“火の系譜”を断ち切れたのかな」
レナがタブレットを見ながら、慎重に答える。
「完全に終わったわけじゃない。でも、データも記憶も、私たちの中で生きてる。“灰”から芽吹くものもあるはず」
涼太が、空を見上げて呟く。
「灰の夜明け、か……。神話の時代から、何度も繰り返されてきた“破壊と再生”の物語。俺たちも、その一部なんだな」
アレックスが拳を握る。
「烈も沙羅も、燼も紅蓮童子も、みんなそれぞれの“火”を背負っていた。だけど、俺たちの“火”は、もう一人じゃない。絆で繋がってる」
カオルが護符を空に掲げて言う。
「陰陽五行、輪廻転生。“火”も“水”も“土”も、命を巡らせるためにある。俺たちの物語は、ここからまた始まるんだ」
悠馬は、石板を胸に抱きしめる。
「……火の神が最も恐れるのは、孤独の炎。誰にも受け入れられず、ただ破壊だけを繰り返すこと。だけど、僕たちの“記憶”は、必ず誰かに繋がる。だから、何度でもやり直せる」
その時、石板が柔らかな光を放ち、アマテの声が再び響いた。
『悠馬、あなたたちの選択が、新たな神話を紡ぎました。火の神も、記憶の橋も、孤独ではありません。絆があれば、何度でも再生できるのです』
悠馬は、夢の中でアマテに問いかける。
「アマテ、僕たちの闘いは、これからも続くの?」
アマテは静かに微笑む。
『神話は終わりません。人が生きる限り、火も記憶も、何度でも生まれ変わります。あなたたちは“新しい物語”の始まりに立っているのです』
現実に戻ると、カナエが仲間たちに向かって手を差し伸べる。
「さあ、みんな。これからも“記憶の橋”として歩いていこう。私たちの物語は、まだ終わらない」
レナが笑い、涼太が拳を合わせ、カオルが護符を掲げる。
アレックスが力強く頷き、悠馬は石板を高く掲げた。
「灰の夜明けを越えて、未来へ――。僕たちの“記憶”は、必ず誰かに届く」
東京の朝陽が、灰色の街を優しく照らし出す。
“記憶の橋”チームの新たな旅が、静かに始まった。