15話 「火の王座、絶望の炎」
青山火口の地下迷宮は、かつてないほどの熱気と闇に満ちていた。
“記憶の橋”チームは、黒燐と赫童の猛攻を退けたものの、心身ともに疲弊していた。
「はぁ……はぁ……。これが“火の系譜”の本気かよ……」
涼太が膝に手をつき、汗を拭う。
カオルは護符を握りしめ、息を整える。
「護符も残り少ない……。敵の“黒炎”は、普通の結界じゃもう無理だ」
アレックスは腕に火傷を負いながらも、赫童の幻歌の余韻に耐えていた。
「理性が……ギリギリだ。悠馬、ここから先は君の“記憶の力”が頼りだ」
悠馬もまた、石板の光が弱まっていることに焦りを感じていた。
「……石板が……。ムーの記憶が、炎に呑まれかけてる……」
その時、地下の奥から烈と沙羅の声が響いた。
「来たか、“記憶の橋”よ。ここが“火の王座”だ!」
祭壇の中央、烈は全身に炎を纏い、手には“カグツチの剣”を携えていた。
沙羅は冷ややかに悠馬たちを見下ろす。
「もうすぐ“火の審判”が始まる。あなたたちの“記憶”も、すべて浄化されるわ」
烈が剣を振り上げると、周囲の岩壁や天井が真っ赤に焼け、空間そのものが揺らぎ始める。
「カグツチの力、見せてやる。“火の王座”よ、我に応えよ!」
烈の背後に、さらに二人の新たな火守が現れる。
――火守・焰蓮:長い黒髪を炎の帯で束ねた女性。両手から“蓮華炎”と呼ばれる花弁状の火を咲かせ、触れるものすべてを灰に変える。
――火守・鬼火:巨大な体躯と鬼の面。口から“鬼火”を吐き、敵味方問わず空間を灼熱の地獄に変える狂戦士。
焰蓮が、蓮の花のような炎を悠馬たちに向けて放つ。
「“蓮華炎舞”――すべての記憶は灰に還るの」
花弁状の炎が空中で舞い、触れた壁や床が次々と崩れ落ちていく。
レナが叫ぶ。
「この炎、データすら焼き尽くす! 電子機器が……!」
鬼火が咆哮し、口から青白い火球を吐き出す。
「オニビィィィィィィィィィィ!!」
火球が地面に着弾し、衝撃波とともに熱風が襲う。
アレックスが前に立ち、仲間を庇う。
「オニビィィィィィィィィィィ!!じゃねーぇ」
「くそっ、こいつは……本物の“鬼火”だ!」
涼太が古文書を必死に読み上げる。
「カグツチの眷属“蓮華炎”は、記憶の根源を焼く炎……“鬼火”は魂そのものを燃やす……!」
カオルが護符を全て使い切り、最後の力で結界を張る。
「もう後がねぇぞ、悠馬!」
烈が剣を振り下ろし、空間に巨大な火柱が立ち上る。
「“火の王座”にふさわしいのは、この烈だ! お前たちはここで灰になれ!」
悠馬は石板を掲げるが、炎の力に押されて膝をつく。
「うっ……! 石板が……ムーの記憶が……消える……?」
沙羅が悠馬に近づき、冷たい声で囁く。
「あなたの“記憶”は、火の浄化で初期化される。これが“再生”よ。あなたの役目は終わり」
焰蓮の蓮華炎が悠馬の足元を焼き、鬼火の火球が仲間たちを分断する。
カナエが叫ぶ。
「悠馬、負けないで! あなたは“記憶の橋”よ!」
だが、烈の剣が石板に迫る。
「終わりだ、悠馬!」
その瞬間、石板が淡く輝き、アマテの声が微かに響いた。
「悠馬……恐れるな。火は破壊だけでなく、再生の始まり。記憶の光を……」
しかし、烈の炎は強烈で、悠馬も仲間たちも苦戦を強いられる。
「くそっ……僕の力じゃ、烈の“火”には届かない……!」
焰蓮と鬼火、黒燐、赫童――火守たちが一斉に炎を放つ。
地下空間は、まるで地獄のような灼熱に包まれた。
「みんな、耐えて……!」
悠馬は、絶望の炎の中で、かすかな記憶の光を探し続ける。
灼熱の地下空間で、悠馬たちは次々と押し寄せる“火守”の猛攻に追い詰められていた。
焰蓮の花弁状の炎が空間を舞い、触れた記憶やデータ、物質すら灰に変えていく。
鬼火の青白い火球は、魂の奥底を焼き、仲間たちの意識を揺るがす。
「もうダメかも……」
カナエが膝をつき、レナの端末もついに沈黙した。
アレックスも赫童の幻歌の余韻で動きが鈍い。
烈は“カグツチの剣”を高く掲げ、勝ち誇ったように叫ぶ。
「これが“火の王座”だ! カグツチの力は全てを焼き尽くし、そして新たな神話を生む!」
沙羅が冷ややかに微笑む。
「悠馬さん、あなたの“記憶”も、ここで浄化される運命よ。火はすべてを初期化し、再生させる――それがカグツチの本質」
焰蓮が蓮華炎を操り、悠馬の足元に迫る。
「“蓮華炎舞”……あなたのムーの記憶も灰に還りなさい」
悠馬は必死に石板を掲げるが、炎の力に押されて膝をつく。
「くそっ……! 僕の“記憶の光”が……消えていく……」
その時、涼太が叫ぶ。
「悠馬! ムーの祈りを思い出せ! “火”は破壊だけじゃない、再生の神でもあるんだ!」
カオルが最後の力で護符を投げる。
「陰陽破魔――“水龍顕現”!」
青白い水龍が炎に突っ込み、わずかながら空間に冷気が生まれる。
アレックスが立ち上がり、鬼火に向かって突進する。
「お前の“鬼火”は、もう通じない!」
赫童が再び童歌を歌い始めるが、悠馬は耳を塞がず、石板を胸に静かに祈る。
「アマテ……ラグナ……僕に力を……!」
その瞬間、石板の奥からかすかな黄金色の光が漏れ、ムーの神殿の幻影が現れる。
アマテの声が、苦しげに響く。
「悠馬……火は祓い、浄化し、再生させる。恐れるな。カグツチの本質は“破壊”と“再生”の両輪。記憶を繋ぐ者よ、選択せよ――」
烈が剣を振り下ろす。
「終わりだ、“記憶の橋”!」
石板と剣が激突し、空間が閃光に包まれる。
――その刹那、悠馬の脳裏にカグツチの神話が鮮烈に蘇る。
母イザナミを焼き、父イザナギに斬られ、血と遺骸から新たな神々が生まれた火の神。
破壊と再生、浄化と創造――その両極が一つに溶け合う。
「……そうか……」
悠馬は、剣の炎に包まれながら叫ぶ。
「僕は“記憶の橋”だ! 火の力を“破壊”だけに使わせない。再生の光で、すべてを繋ぐ!」
石板が激しく輝き、黄金色の炎が烈の剣を包み込む。
烈が驚愕する。
「なにっ!? 俺の“火”が……!」
沙羅が目を見開く。
「……悠馬さん、あなたは……!」
焰蓮の蓮華炎が黄金の炎に飲み込まれ、鬼火の火球も浄化されていく。
赫童が歌を止め、黒燐が膝をつく。
だが、烈はなおも剣を振り上げ、最後の一撃を放とうとする。
「カグツチの末裔は、決して滅びぬ! “火の王座”は……!」
その時、沙羅が烈の前に立ちふさがる。
「烈様、もうやめてください。あなたの“火”は、ただの破壊しか生まない」
烈が叫ぶ。
「沙羅、裏切るのか!?」
沙羅は静かに首を振る。
「私は“知恵”のために火を求めた。でも、あなたの炎は……もう、未来を焼き尽くすだけ」
烈が絶叫し、剣を振り下ろす。
悠馬は石板を高く掲げ、全身で仲間たちを守る。
「“記憶の光”よ、すべてを繋げ!」
黄金色の炎が空間を満たし、烈の剣を包み込む。
激しい閃光の後、地下空間は静寂に包まれた。
烈は膝をつき、剣を手放す。
焰蓮も鬼火も、黒燐も赫童も、力尽きて倒れる。
沙羅が涙を流し、悠馬に頭を下げる。
「……ありがとう。あなたの“記憶の光”が、私たちの“火”を救った」
悠馬は、傷だらけの仲間たちを見渡し、静かに言った。
「闘いは終わらない。カグツチの“火”も、記憶の“光”も、これからの未来をどう使うかは、僕たち人間の選択にかかっている」
カオルが苦笑する。
「まったくだ。神話の時代は終わらねぇな」
アレックスが拳を掲げる。
「でも、俺たちは負けない。“記憶の橋”がある限り、何度でも立ち上がる!」
東京の地下に、再生の光が差し込む。
だが、遠くで再び新たな“火”が灯る気配があった――。
カグツチの末裔との闘いは、まだ終わらない。
悠馬たちの苦闘と希望は、これからも続いていく――。
新たな敵・仲間キャラクターと特殊能力
- 火守・焰蓮:蓮華炎(花弁状の炎)で物質も記憶も灰に変える。美しくも冷酷な女性。
- 火守・鬼火:鬼の面をつけた巨漢。青白い火球で魂ごと焼き尽くす狂戦士。
- 烈:カグツチの剣で空間そのものを灼熱に変え、記憶の力すら押し消す。
- 沙羅:火の浄化で“再生”を強制する冷酷な知性。