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14話 「火の系譜、終わりなき抗争」

夜明け前の東京。地下神殿での激闘から一夜が明けても、悠馬たちの心には安堵よりも不穏な予感が渦巻いていた。

“火の剣”を封じたはずの祭壇跡には、いまだ消えぬ赤い残光が漂い、地上の空気もどこか焦げたような匂いを帯びている。


「先生、昨夜の“火の剣”……あれで本当に終わったんでしょうか?」


小林が不安げに尋ねる。

悠馬は、石板を撫でながら首を振った。


「いや。烈や沙羅、それに火守たちの執念は消えていない。カグツチの末裔の闘いは、これからが本番かもしれない」


カナエが、スマートフォンの画面を見せる。


「見て。SNSで“火の浄化”を掲げる新興団体が急増してる。烈の演説動画が拡散されて、信者が都内各地で集会を始めてるわ」


レナがPCで監視カメラ映像を切り替える。


「地下鉄網や変電所にも不審な動き。火守の残党が都市インフラを狙ってる可能性が高い」


カオルが護符を手に、険しい顔で言う。


「昨夜の“火の門”は一時的に閉じただけだ。カグツチの力は、神話そのものが語るように、破壊されても必ず再生する。油断は禁物だぜ」


アレックスが拳を握りしめる。


「火守の“焔”や“紅狐”は撤退しただけだ。奴らは烈や沙羅と合流して、次の儀式を準備しているはずだ」


涼太が、古文書をめくりながら呟く。


「カグツチ神話の本質は“死と再生”――イザナミの死、イザナギの怒り、カグツチの首を刎ねた剣。その血から新たな神々が生まれた。つまり、倒しても倒しても“火の系譜”は続くってことか……」


その時、レナのPCに新たな侵入アラートが鳴る。


「……誰かが私たちの通信を傍受してる!」


画面に現れたのは、狐面に黒装束の女。

火守・紅狐が、ネット越しに妖しい微笑みを浮かべた。


「“記憶の橋”の皆さん、昨夜は楽しかったわね。でも、これで終わりだと思わないで。烈様は“火の王座”を手に入れるまで止まらない。次は“青山火口”で会いましょう」


通信が切れると同時に、都内の各地で小規模な火災や爆発の報が相次いだ。


カナエが唇を噛む。


「都市全体を“火の儀式”の舞台にしようとしてる……!」


カオルが護符を握りしめる。


「青山火口……江戸時代の火山跡だ。地下に“火の神殿”の分社があるって伝説が残ってる」


悠馬は、石板を見つめながら決意を固めた。


「烈や沙羅、火守たちの目的は、都市そのものを“火の再生”の儀式に巻き込むことだ。僕たちが止めなければ、東京は……」


アレックスが力強く頷く。


「今度こそ決着をつけよう。だが、敵も進化している。新たな火守や“カグツチの血”を引く者が現れるかもしれない」


その言葉通り、敵の新たな幹部たちが動き出していた――


その頃、地下の秘密拠点。

火野烈は、深紅の法衣に身を包み、沙羅と火守たちを前に宣言した。


「“火の剣”は奪われたが、我らの意志は折れぬ。カグツチの血は、死してなお新たな神を生む。次なる“火の門”を開く!」


沙羅が冷静に指示を飛ばす。


「焔、紅狐、灰翁――新たな同志を迎え入れます。“火守・黒燐”と“火守・赫童”を。彼らは“黒き火の呪”と“赫き童歌”の継承者です」


――火守・黒燐こくりん:全身黒い煤に覆われた青年。手から“黒炎”を放ち、物質を瞬時に炭化させる特殊能力を持つ。


――火守・赫童あかわらべ:幼い外見の少年だが、歌声で周囲の人間を狂乱状態に陥れる“赫き童歌”の使い手。


烈が不敵に笑う。


「“火の血脈”は、決して絶えぬ。次は都市そのものを焼き尽くし、灰の中から新たな神話を創り出すのだ!」


夜の東京に、再び“火の影”が忍び寄る。

悠馬たちは、青山火口に向けて動き出す。


カナエが、静かに呟く。


「簡単に終わる闘いじゃない。神話の“火”は、何度でも蘇る……」


悠馬は、仲間たちを見渡し、力強く言った。


「僕たちの戦いは、まだ始まったばかりだ。記憶の橋を守り抜こう。何度でも!」


東京の夜空に、再び“火の門”が開かれようとしていた――。



東京の夜は、かつてないほど不気味な赤い月に照らされていた。

“記憶の橋”チームは青山火口に急行しながら、各自が緊張と覚悟を胸に秘めていた。


レナがタブレットを操作しつつ、鋭い声で言う。


「都内の各所で小規模な爆発と火災が続発してる。火守の新たな幹部、“黒燐”と“赫童”が動き始めたわ」


カオルが護符を握りしめる。


「黒燐の“黒炎”は、物質を一瞬で炭に変える。普通の結界じゃ防げない。赫童は童歌で人の心を狂わせる……江戸の妖怪伝説そのままだ」


アレックスが拳を鳴らしながら言う。


「僕が前線で赫童を止める。歌が始まったら耳を塞いで!」


涼太が古文書をめくりながら呟く。


「“赫き童歌”は、神話時代の“火の童子”が持っていた力だ。歌声を聞いた者は理性を失い、炎の幻に踊らされる……」


その時、青山火口跡の地下から黒い煙が噴き上がり、地響きとともに“火守・黒燐”が姿を現した。

全身を煤に覆われ、目だけが赤く輝く。


「“記憶の橋”の者どもよ……この“黒炎”で、すべてを灰に還してやる」


黒燐が手を振ると、地面から黒い炎が噴き出し、コンクリートや鉄骨が音もなく炭化していく。

レナが叫ぶ。


「このままじゃ足場ごと崩される! カオル、結界を!」


カオルが護符を地面に叩きつけ、青い光の壁を広げる。


「陰陽破魔・水結界!」


黒炎と水結界が激しくぶつかり、蒸気が立ちこめる。

その隙に、子供の姿をした赫童が、無垢な歌声で童歌を歌い始めた。


「ひのひのかぐつち ほむらのこ……」


歌声が空気を震わせ、周囲の警備員や通行人が次々と目を虚ろにして踊り出す。

アレックスが耳栓を投げ、仲間たちに合図する。


「耳を塞げ! 歌に呑まれるな!」


しかし、赫童の歌は脳に直接響く。

カナエが膝をつき、涼太が額を押さえる。


「やばい……頭が割れそうだ……!」


悠馬は石板を胸に、必死に心を保つ。


「“記憶の橋”よ、僕に力を……!」


その時、石板が黄金色に輝き、アマテの声が心に響く。


「悠馬、カグツチの力は“破壊”だけでなく“再生”も司る。恐れず、記憶の光で闇を祓いなさい」


悠馬は石板を掲げ、静かに祈る。


「ムーの祈りよ、赫童の幻を打ち払え!」


金色の光が赫童の歌声を包み、狂乱した人々の瞳に正気が戻る。

赫童が驚き、歌を止める。


「きみ、なぜ僕の歌に負けないの?」


悠馬が静かに答える。


「僕たちは“記憶の橋”だ。破壊も再生も、未来を紡ぐためにある。君の力も、きっと……」


黒燐が怒りに震え、両手から巨大な黒炎を放つ。


「ならば灰となれ、“黒炎葬”!」


黒炎が結界を突き破り、悠馬たちに襲いかかる。

カオルが最後の護符を掲げ、アレックスが身を挺して仲間を守る。


「悠馬、今だ!」


悠馬は石板を地面に叩きつけ、ムーの記憶を解放する。


「火の神よ、再生の光を!」


黄金色の炎が黒炎を包み込み、炭化した地面から新たな草花が芽吹き始める。

黒燐が膝をつき、赫童が涙を流す。


「どうして……僕たちの“火”が負けるんだ……」


悠馬がそっと手を差し伸べる。


「君たちの“火”も、破壊だけじゃない。新しい命を生む力だ。共に歩もう」


その時、地下の奥から烈の怒号が響く。


「甘いぞ、悠馬! “火の王座”はこの烈が継ぐ! カグツチの剣はまだ俺の手の中だ!」


沙羅が冷ややかに烈を見つめる。


「烈様、今こそ“火の審判”を……」


烈と沙羅、そして残る火守たちの影が、さらに深い地下へ消えていく。


アレックスが息を切らしながら言う。


「終わったわけじゃない……奴らはまだ“火の王座”を狙ってる」


カナエが立ち上がり、拳を握る。


「私たちも進もう。“記憶の橋”の戦いは、まだ終わらない」


悠馬は石板を胸に、仲間たちとともに地下深くへと歩みを進めた。

東京の闇に、燃え尽きぬ“火の系譜”がうごめいている――。



新たな敵キャラと特殊能力

- 火守・黒燐こくりん:黒い煤に覆われ、手から“黒炎”を放つ。物質を炭化させ、建造物や防御結界も一瞬で崩壊させる。

手から“黒炎”を放ち、物質を瞬時に炭化させる。黒炎葬は広範囲を一気に焼き尽くす必殺技。

- 火守・赫童あかわらべ:童子の姿。童歌を歌うことで周囲の人間の理性を奪い、狂乱や幻覚を引き起こす。

童歌で人々の理性を奪い、狂乱や幻覚に陥れる。歌声は脳に直接響くが、記憶の光で浄化可能。

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