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「連絡無いわね……」
最近の母は窓の外を眺めては誰からかの連絡を待っている。
「おい、スカルキー地方はどうなっている? 」
父もなんだか慌ただしく執事に指示を出す。
「お母様、お茶会で話題となった観劇に行きたいのですが……」
ソレーヌは今日も変わらず。
母に話しかけるも、重要な件なのか屋敷から出ることを拒否している。
この三人に巻き込まれたくないので、庭へ逃げることにした。
「今日も綺麗ね」
庭の一角に私専用の花壇がある。
令嬢が庭いじりと言うのは、爵位によっては蔑まれたりする。
私は公爵令嬢なので、知られたとしてもあからさまな嫌味はない。
周囲からはないが身内からは……
『花は愛でるもので、育てるのは平民の仕事ですよ。お姉様にはお似合いですが、私は汚れたくありません』
そう言ってソレーヌは、花を部屋に飾ることはあっても庭を散策することさえ避けている。
日差しと虫だけでなく、土の上を歩く行為が嫌だそうだ。
『私の大切な靴やお洋服が汚れてしまいますもの』
母は愛らしいソレーヌを着飾ったりお茶会に同伴させることが多く、私はいつも一人屋敷に残っていた。
なので一人で出来る、本を読んだり刺繍をしたり花壇の手入れをすることが多い。
花壇の手入れしている時間は穏やかな時間を過ごせる……
「カルロッタ」
「……はい」
珍しく私の花壇に訪れたのは母。
「貴方、教会で何を祈ったの?」
「……えっと……王宮の聖女様の植えた木について祈りました」
ソレーヌには日照りで困惑しているスカルキー地域を祈ると言ったが、教会に申請したのは聖女様の植えた木……
だけど実際に祈ったのは、魔獣で被害を受けている国境付近の安全。
聖女でない私が祈ろうと関係ないのだが、ふと気になったので祈っていた。
そういえば、スカルキー地域で雨が降ったという報告は届いていない。
前回の今頃は『雨が降った~』と至る所で騒がれていた。
「……そうなの? スカルキー地域の日照りについて祈るとばかり……」
「あぁ、ソレーヌにはそう伝えたんですが直前になり変更しました」
「そう……なの? 」
私が何について祈ったのか気になったのか、わざわざ母は花壇まで聞きに来た。
ソレーヌ程ではないが、母も私が花壇をいじるのを良く思っていない。
祈りの内容を聞き満足したのか、母は屋敷の中へと去って行く。
私に興味の無かった母が祈りの内容を聞く為に来ることには違和感を覚えただが、二度目の私の人生は前回と違うことが多すぎで疑問に思うのを止めた。