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祈りを終え、壇上を降りる。
「本日は皆様、お祈り感謝いたします。この中に聖女となる方がいらっしゃることを、私共は心より祈っております。候補となりえる方がおられた場合、ご連絡させていただきます」
司祭の挨拶で終え、私達は教会を後にする。
「んふふ」
祈りを終え馬車で移動中も終始、母は浮かれている。
それは母だけでなく父も、窓の外を眺めながら口角が上がっているのが分かる。
ソレーヌは、これから向かうドレス店に思いを馳せている。
「どうしてお姉様ばかりなんですかっ、私がドレス欲しいとお願いしたんですよ」
ドレス店到着早々、ドレスの試着をするよう母が指名したのは私だった。
一着着れば終わると思っていたが、三着程着替えた時にソレーヌの我慢は限界を迎え店員がいようがお構いなしに怒りを見せた。
「お姉様はドレスなど興味ないんですから一着で充分です」
「カルロッタは、これから必要になるのよ」
「私の方が必要としています」
「ソレーヌ、ワガママ言わないの」
「どうして今日のお母様はそんなに意地悪なんですかっ、お父様も何とか言ってください」
「……ソレーヌ、一着あれば十分だろう? 」
「お父様までどうしてしまったんですか? たったの一着なんて。同じドレスを着用したとなれば笑い者にされてしまいます。私が社交界で笑われてもお父様はいいんですかっ」
「我が家は公爵家だ。笑い者にはならない」
「なります。私は知っています」
ソレーヌのワガママをなんでも叶えていた両親。
そんな二人が拒否する姿は新鮮というか、やはり違和感を覚える。
目の前の光景ばかり気を取られ、ソレーヌの「同じドレスを着用すれば笑い者にされる」と言ったのが、誰の事を指しているのか考えが及ばなかった。
「私は一着で十分なんだけどな……」
最終的に私は母の言葉通り三着依頼し、ソレーヌは一着となった。
屋敷に戻る馬車の中ではソレーヌの愚痴が止まらず、限界を迎えた父に怒鳴られさらに泣きわめいていた。
「……ハァ」
思い出した。
私が何事も諦めるようになったのは、ソレーヌのこのような態度が原因だった。
自身の思い通りにいかないと分かると、ソレーヌは不満を言い続け最終的には泣きわめく。
こんな事なら、こちらが折れた方が楽と思わせるんだった。
久しぶりのソレーヌの素行に父も母も私も窓の外を眺め、早く屋敷に到着する事を願う。
「お……帰りなさいませ」
帰宅を待っていた使用人もソレーヌの号泣に圧倒されるも、普段通りの対応を務める。
誰も何も言わずに、そそくさと部屋へと逃げ込む。
その後ソレーヌは泣き止むも、夕食時には不満を主張する為に家族での食事を拒否。
三日ほど部屋に立てこもりドレスを強請るも、両親が折れる事は無かった。