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翌朝
「ヴィル? ごめんなさい。寝坊しちゃいました」
「いや、そんな事は無い」
私はお酒が飲めないが、ヴィルは支援者に勧められると断ることなくお酒を飲んでいた。
それなのに、私より早起きで既に出発の準備を開始している。
ターナムやコンフィにエディも、昨日はヴィルの祝勝会で他の人達と飲み比べすると言っていたのに……
「元気すぎる」
彼等はお酒による影響を見せることなく働いていた。
私も出来る限りの手伝いをするも……
「大丈夫だよ、ロッティは荷物の見張りお願い」
見張りを頼まれたが、ようは『戦力外なのでここにいて』という意味なのだろう。
申し訳ないと思いながら、運び出す荷物の見張りをした。
私達だけでなく、他のテントの人たちも準備をしている。
決勝に残れなかった参加者の中には既に去った者もいるが、多くは今日や明日にはここを去る。
現地の者は今大会の選手に別れを告げつつ、次に始まる大会の準備に気持ちを切り替えている。
至るところで女性が男性に声を掛けている。
「ねぇ、私も連れて行ってくれるんじゃないの?」
「領主から呼び出しが来た。今は無理だ……また試合で来るから」
「その時は私の事……連れて行ってくれるんだよね?」
「心配するな」
至る所で別れを惜しむ恋人達の会話をしている。
あまりじっくりと見てはいけないと、興味はありつつ視線を外し荷物の確認をする。
「なぁ、あんた。あのテントから荷物を運ぶ奴を見なかったか?」
見知らぬ男性に尋ねられた。
彼が指さすテントは、先程出発の準備をしていたテント。
「あぁ、先程荷物を搬出していましたね」
「本当か?」
男性は驚いた声をあげ、私との距離を詰める。
「あっ、はい」
「どんな奴だった?」
「どんな奴……確か、大きな荷物を抱えた大柄な男性でした」
「それはいつの事だ?」
「つい先ほどです」
「どっちへ行った?」
「向こうです」
「向こうだな。何か特徴など無かったか?」
「特徴ですか? えっと……あっ、頬に傷がありました」
「そうか、ありがとう」
男性は私が指した方向へ駆けて行った。
「ロッティ、どうした?」
手の空いたエディが男の後ろ姿を眺めながら尋ねる。
「エディ。今ね、男性に声を掛けられて……」
「口説かれたの?」
「違います。そんなことはありません。人を探しているみたいでした」
「人探し?」
「テントに忘れ物があったのか、搬出していた男性を探しているようでした」
「搬出している男性……それ、もしかして泥棒に入られたってことじゃない?」
「泥棒……ですか?」
「あるんだよね~。搬出に紛れて泥棒に入るっての」
「そうなの?」
「そっ。どさくさに紛れて盗みを働く奴。大抵の奴は騎士を装い、荷物運びの瞬間を狙う。うちにはロッティがいてくれてよかったぁ。テントの前に人がいると犯行に及ばない。顔をじっくり見られた相手は変な動き出来ないしね。泥棒に入られたって気づいた時には犯人は逃亡、盗まれた物は大抵戻ってこない」
泥棒……
こんなに多くの人が行き交い、夜ではなく朝なのに……
後ろめたい事をするのは夜だと思い込んでいた。
私が荷物の見張りを任されたのは、てっきり荷物運びには戦力外だからだと思っていた。
まさかそんな、重要な仕事を任されていたとは。
「泥棒だなんて……」
盗みに入るなんて良くない。
「あの犯人が捕まりますように……」
全ての荷物を確認し、船を目指して出発する。
「……何だ? 喧嘩でもあったのか?」
騒ぎがあったのか、人が集まり混雑していた。
「なぁ、何かあったのか?」
ターナムが近くの男性に声を掛ける。
「あるテントに泥棒が入って、騎士が捕まえたらしい」
「泥棒を捕まえたのか?」
「あぁ。『盗まれたぁ』って男の執念だな。顔に傷がある奴を徹底的に探していたらテントから出てくる瞬間を現行犯で捕まえたらしい」
「それは凄いな」
泥棒は捕まったらしい。
犯人を捕らえたのは、あの人だろうか?
楽しい思い出の終わりが泥棒にならなくて良かった。
これで心置きなくルーメルニーティア国を出発できる。
「ルーメルニーティア国……楽しかった」
馬上槍試合など迫力がありすぎて世間を知らない私には刺激が強かったが、彼らの真剣勝負に胸を打たれた。
教会に言われるがまま、試合などは良くないものと思い込んでいたがそんな事は無かった。
皆、一生懸命で素敵だった。
教会育ちだと、どうしても『争う事よりも、彼等の真剣な姿こそ素晴らしい』と語るだろう。
私もきっと、ヴィルが負けていたらそのように話していたかもしれない。
彼等の真剣勝負。
私の知らない世界は、そう悪いものではなかった。
勝利の女神編……終わり。
この度、『二度と聖女は致しません』が4月1日に発売いたします。
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よろしくお願いいたします。




