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他人事のようにヴィルの話を聞いていると、いつの間にか司会者は私の前へ。
「おめでとうございます、今大会の『勝利の女神』は貴方です」
「……私……ですか?」
選ばれることは無いと思っていたので、司会者が目の前で立ち止まってもまさか自分だとは思わなかった。
「おめでとうございます。どうぞ前へ」
司会者に促されるまま壇上へ。
「今回の『勝利の女神』は、なんと二人の出場者を勝利に導いたのです。大会史上初めての事。彼女こそ今大会の『勝利の女神』に相応しいと言えるでしょう。そんなあなたのお名前をお聞きしても?」
「ロッ……ロッティです」
「ロッティ様。馬上槍試合のヴィルヘルム卿と剣試合のマーベリック卿の『勝利の女神』素晴らしいです。一言頂けますか?」
一言?
突然求められ、何も浮かばない。
何を言えばいいの?
「えっと……ふ、二人が、勝利したのは日々の鍛錬の成果です。私は偶然居合わせたに過ぎず、私の方が彼等二人に幸運を頂きました。称えられるべきは優勝者の皆さんです。素晴らしい試合を見せて頂きありがとうございます」
この場に相応しい言葉なのか分からないが、何とか答えられた。
どうだろう?
「今大会の『勝利の女神』は何と謙虚な方だ。そんな貴方だから『勝利の女神』が貴方に微笑んだのかもしれない。ありがとうロッティ」
盛り上げ上手な司会者のおかげで、私のつまらない一言は何事もなく終えられた。
存在感を失くしたいのに、通り過ぎる私に男性から「おめでとう」と言葉を頂き、女性には睨まれる。
こんな私が選ばれた事で女性が怒りを向けるのは分かるが、何故私が「おめでとう」と言われているのか分からず居たたまれない。
「良かったな」
「良いのでしょうか? 私が『勝利の女神』なんて……それに、今回複数の方から花を頂いたのは私だけではないと聞きました……」
「ん? 二人から花を貰ったのはロッティだけだぞ」
あれ?
全種目の優勝者から花を貰った人がいるって噂で……
「そう……なんですか?」
「あぁ」
「それでも……大会で表彰されるべきは選手であって、私は何も……」
「そんな深刻に受け取ることじゃない。今は賑わっているが、この大会も当初は人が集まらず観客も男しかいなかったらしい。男だけじゃなく、女性をどう取り込むか。それに女性の観客がいれば出場者も増えるだろうと考え、どう女性を呼び込めばいいものかと試行錯誤したらしい。簡単に女性が増えることもなく、女性の観客を促すために出場者の『勝利の女神』を表彰してみたんだ。その女性が、『勝利の女神』となったことを切っ掛けに騎士と結婚した。その噂によって『勝利の女神』になりたい女性の観客も増え、女性目当てに有能な騎士も遠くから出場するようになった。参加者が増えると試合数が増えることで滞在期間も長引き様々な店の売り上げも増加。結果『勝利の女神』効果は上手くいったってわけだ」
「そう……なんですね」
勝利の女神が重要なのではなく、勝利の女神を作ることが重要だったということ。
「あぁ。だから『勝利の女神』は必ず誰かしらがなる。『勝利の女神』が何をしたかじゃなく、存在してくれているだけで十分な効果を発揮してくれるってことだ」
ヴィルの言葉に納得するも、今大会の『勝利の女神』として注目されるのにはやはり慣れない。
ワインに酔った支援者達に声を掛けられる。
「勝者を二人も見抜くなんて、今大会の『勝利の女神』は見る目があるんだな」
「『勝利の女神』よ、今度は私の幸せを祈ってくれ」
だが彼らの真の目的は私ではない。
私の隣にいるヴィルの姿を見ると
「私のところの騎士にならないか? 」
「今より高い給料を払おう」
勧誘の会話に変わる。
大会の後夜祭の本来の目的は、有能な騎士の勧誘ではないかと思うように。
私は支援者が馬上槍試合で優勝したヴィルに接触する為の切っ掛けとして利用されたに過ぎない。
ヴィルの隣にいることで声を掛けられるもすぐに私からヴィルに目的が変わる。
新の目的が私でないにしろ、あんな沢山の人と会話したのは初めて。
後夜祭が終わりテントへ到着すると、疲れて翌朝までぐっすり眠っていた。




