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「お父様もお母様も酷いっ。お姉様だけズルいわ」
狭い馬車の中でもお構いなしでソレーヌは声を荒げ、涙を見せる。
「全くお前は……」
呆れたように呟く父の声。
これが夢だというなら、私はこんな父を望んでいたのだろうか?
私は心のどこかでソレーヌより優先されたいと望んでいた?
気まずいまま馬車は教会に到着。
「お待ちしておりました、バルリエ公爵様、公爵夫人、カルロッタ様……」
以前は司祭自ら出迎えなどなかった。
それに、司祭の視線が気になる。
どうしてそこまで視線を向けられるのか分からない。
まだ、聖女と判定されていないのに……
「私が司祭のエルディトムと申します」
私の記憶違いなのだろうか?
司祭が来訪者一人一人に挨拶を交わした記憶はない。
これは都合のいい夢なのか、時を遡った現実なのか未だに判断できない。
感覚などは現実のように感じるのに、過去との違いに戸惑う事ばかり。
「では、皆様はこちらに」
案内されたのは以前と同じ祈りの場。
既に多くの貴族が集まっていた。
司祭はそのまま壇上に上がり、挨拶を始める。
挨拶の内容は明確に覚えていないが、同じような事を話している。
そして祈りの内容も……
『スカルキー地域では長い間雨が降らず、農作物や貯水池にも影響を与えている』
『国境付近では魔獣の発生が多発している』
『初代の聖女が王宮に植えた木が枯れ始めている』
「皆様には再度忠告させていただきます。自身に能力があると勘違いしてしまう者は悪人ではありません。但し聖女だと偽る事はとても罪深い行為。そのような事が起きた場合、教会は厳重に処罰を下します。そして王宮にも報告させていただきます」
前回そのような話は無かった。
司祭は私に告げていると感じてしまう。
内容が変化し彼の視線が私を向いているのも、『今度は聖女を騙るなよ』と言われているようだ。
「お姉様は何について祈りますか? 」
隣に座るソレーヌが小声で尋ねる。
本来何について祈るのかは誰にも伝えてはならない。
祈りの内容を知るのは教会関係者のみと決まっている。
「私は……聖女の……」
初代聖女が植えたとされる木。
代々聖女が管理している。
その木が枯れた時、聖女の能力が弱まり始めている象徴。
前聖女が亡くなってから随分経つ。
前回とは違い別の内容を祈りたいのだが、もし私が別の選択をしたらソレーヌも私と一緒に別の祈りを捧げる可能性がある……
「お姉様? 」
「いえ、私はスカルキー地域の日照りを祈るわ」
「そうなのですね、なら私もそうします」
「……えぇ」
司祭の挨拶が終わると、令嬢達は移動し祈り場の横にある机に向かう。
誰にも見られないように祈りの内容と自身の名前を記入。
そしてその用紙を裏返して司祭に手渡す。
「では、祈りを始めてください」
今回の私は日照りではなく、聖女様が植えた木の回復を選択し司祭に提出。
だけど祈る直前に、国境付近の魔獣が気になりその事について祈った。