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彼女が出場者?
出場……者?
信じられず、彼女の全身を確認。
何度確認しても、目の間の人は女性。
女性が、馬上槍試合に参加していたの?
「だから、どうして手加減したんですかっ」
「さっきも言ったが、手加減したつもりは無いんだけどな……」
「私が女だからですか?」
「女だからってわけじゃ……まぁ、気付いて油断したというか……怪我をさせたくないとか色々と考えたな。手を抜いたわけでもないんだが……それでも最後は……実力を出したつもりだ」
「私は覚悟を持って大会に出場したんです。貴方の行為は紳士的などではなく、侮辱行為です」
「侮辱って……相手が女性だって受け入れるのに時間が掛かっただけだ」
「私、今回の事、忘れませんから」
女性は試合中のヴィルの対応が不満だったようで、思いをぶつけると立ち去った。
馬上槍試合の参加に男性限定というルールはないので、女性が出場しても問題ない。
問題ないというか、女性が参加するとは思っていなかったのでルールにも記載していなかったのだろう。
次回から女性禁止となれば、尚更ヴィルは彼女に恨まれるに違いない。
女性が参加していた事実は伏せておいた方が良いのかもしれない。
「なぁ、ヴィル。どうして相手が女性だと気付いた?」
私も抱いた疑問をエディが質問してくれた。
「……なんとなくだな」
「なんとなく……」
なんとなくと言われてしまえば、それ以上追及する事は出来ない。
私達は何事もなかったように食事を再開。
その後は和やかな食事を終え、テントに戻る。
「まさか、正体不明の騎士が女性だったとは思わなかった……」
女性が男性のように働くには正体を隠さなければ対等になれないの?
今回は騎士だからそうなの?
「手に職もない私が一人で生きていくというのは、私が思っているより大変なのね……」
今は、ヴィル達と行動出来ている。
だけど、これからもと言うのは難しいしヴィル達にも迷惑を掛けられない。
一人で生きて行けるようになりたいが、世の中を知れば知る程難しいというのを思い知らされる。
私は世の中を知らな過ぎた。
貴族として生活をして、教会通いしか知らない私。
何が仕事になり、私に出来ることも分からない。
「今後、私はどうしたらいいんだろう……少し散歩でもしようかな」
気分転換に散歩でもしようとテントから出る。
「……あっ」
「あっ」
テントから出ると女性と目が合った。
相手は以前、ヴィルにサッシュを渡し断られたシルビア。
「えっと……何か御用でしょうか?」
『ヴィルに』御用でしょうか? と聞くべきなのか分からなかった。
「……少し、話さない?」
「私……ですか?」
「そう」
断る事が出来ず、彼女に付いて行く。
「貴方のこと始めて見るけど、以前からヴィルと知り合いなの?」
「……ヴィルと知り合ったのは、この国に来る前です」
「貴方……他国の人なの?」
「はい」
「他国からヴィルと一緒に……」
「あの……私達は……」
『貴方が考えるような特別な関係ではありません』と喉まで出かかっていたが口に出来なかった。
それは、ヴィルとの約束。
「ヴィルは今までいくら女性に近付かれても、誘いに乗った事は無かったわ……」
「……そうなんですね」
「ヴィルとどういう関係なの?」
「関係……ですか? ん~、私達は……」
ヴィルが試合に集中する為に私は『勝利の女神』を承諾した。
ここで真実を話すわけにもいかない。
私達の関係についての設定なんて決めてないからなんて答えていいのか分からない。
どうしよう……
「私は以前からヴィルの知り合いなの。女性に素っ気ない彼だけど、私にだけは優しかった。それなのに、突然現れた貴方が『勝利の女神』だなんて信じられない。貴方、ヴィルに何かしたんじゃないの? 過去にヴィルに近付いた女達みたいに卑怯な手でも使ったんでしょ。そうに決まっているわ」
「私はそんな事していません」
「どうだか。あんたさえいなければ、ヴィルは私を『勝利の女神』にしてくれたに違いないわ……あんた、邪魔なのよ。ヴィルが負けたらあんたのせいだから」
女性は言いたいことだけ言って去って行く女性の後ろ姿を見送った。
一人取り残された私はテントに戻る。
気分転換の為に外に出たはずが、尚更気分が落ち込む。
「もう、大人しく寝よう」
今日一緒にいただけで、ヴィルは沢山の女性に声を掛けられていた。
彼女のように、ヴィルの勝利の女神が私では『不釣り合い』『実力が発揮できない』『力不足』と感じている女性は多数いるのだろう。
そんな彼女達に遭遇するのが怖く、テントから出られず。
気配を消し、眠ろうと目を閉じるも眠気が来ない。
自身の今後やあの人とヴィルの関係、明日の試合……
不安が押し寄せ寝付けない。




