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「あの、これ貰って頂けませんか?」
ヴィルのところにも女性が一日に何人もやって来る。
私が隣にいるのだが、お構いなし。
これではヴィルの女性避けとして機能していない。
女性は意中の相手や優勝するだろう男性にサッシュを贈り、勝利した出場者に贈った相手は『勝利の女神』になる。
なので、女性の中には可能性のある男性達に手あたり次第贈る人もいる。
そして男性の方も、いくつも受け取り女性達の中から選ぶ人もいる。
ヴィルは……どうなんだろう?
「俺はすでに受け取っている。他の奴に渡してやってくれ」
「私『勝利の女神』に選ばれなくても構いません。受け取って貰えるだけでいいんです」
女性の健気な姿にヴィルはどうするのか、気にしていない素振りで私は神経を研ぎ澄ましている。
「悪い。受け取れない」
そう言ってヴィルは女性に背を向けた。
あまりにはっきりと拒絶の姿を見せるので、驚き女性に視線を送ってしまった。
これがいけなかった。
涙目の女性の姿から彼女は『勝利の女神』というステータスが欲しいのではなく、ヴィルを慕っているのが私にもわかった。
私がヴィルにサッシュを渡したことを知ってか、今回なら受け取ってくれると思ったのかもしれない。
淡い期待を持ち勇気を振り絞って差し出したところ、受け取って貰えなかった……
そんな状況で私と視線があえば当然ながら睨まれ、女性は去って行く。
ヴィルに今の光景について触れていいものか分からず、逃げるよう目の前の試合に視線を向ける。
迫力のある戦いなのに、全く頭に入ってこない。
「もうそろそろ試合だ。ヴィル行くぞ」
コンフィに促され試合の準備の為に移動。
私も皆と一緒に向かう。
ヴィルの対戦相手は優勝候補に名が挙がっている正体不明騎士。
馬に乗っていると正確には分からないが、ヴィルよりも体格が一回り小さい。
彼の戦法は、槍の突きに関して威力が弱いが馬上で槍を交わすのが上手い。
自身の体の大きさを利用した戦法なのだろう。
ヴィルは体格も良く威力もあるので、当たれば相手が落馬する確率が高い。
「ヴィル、怪我しないでね」
「あぁ」
私の送り出しは毎回同じ。
勝つことも大事だが、それ以上に怪我しないことを望む。
そして試合が始まる。
「ん、なんだ?」
「どうしたの?」
「いや、なんかヴィルの動きが違う」
エディの言葉にヴィルを注意深く観察する。
三度あるうちの二度、ヴィルは相手を打たなかった。
「怪我とかしている……とか?」
「いや、今までの試合で怪我はしてない。あいつ、調子悪いのか?」
全員でヴィルの様子を伺っていると、三度目では相手を突き落馬させ勝利。
「ヴィル、どうした? 調子悪いのか?」
帰って来たヴィルに心配の声を掛けるエディ。
「いや、問題ない」
問題ないというわりには、表情は曇っている。
本日の試合は終了した。
明日の試合で勝者が決定する。
「あの……」
いつものように皆揃って食事している時に、女性がヴィルに声を掛ける。
皆、慣れたもので食事をしつつ相手がどんな人間なのかそれとなく確認。
「……あっ、今日の。怪我はしてないか?」
「えっ? はい、大丈夫です。それよりどうして試合で手加減したんですか?」
「手加減したっていうか……まぁ、気付いてどうするべきか悩んでた」
「私は覚悟の上で出場したんです。怪我は恐れていません」
「だけどな……」
話が想定していたものと違い、違和感を覚える
てっきりサッシュを受け取ってほしい、『勝利の女神』にしてほしい、という話だとばかり……
「ヴィル……どうした? 彼女は知り合いなのか?」
ターナムも同じ事を思ったのか、二人の会話に交じる。
「あぁ。彼女、今日の試合相手だ」
「……彼女の主人が試合相手で、言いたいことがあるってことか?」
「違う、彼女は出場者だ」
「「「「……えっ?」」」」




