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二度と聖女は致しません  作者: 天冨 七緒
勝利の女神編
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「大丈夫か?」


「はい。少し一人に……」


「一人は危ない。俺も一緒に行く」


「ヴィルはこれから試合でしょ? 私は平気、ヴィルの無事を祈っています」


 食べ物を勧められるが、その匂いにも敏感に反応してしまう。

 人込みを避け静かな場所を目指す。

 ヴィルと歩いている時に目についた場所。


「あった」


 会場の近くに休憩所がある。

 私は逃げ込むように休憩所へ。

 出場選手と観客はここで交流を図っている。

 女性が意中の選手に激励の意を込めて贈り物をしている光景。

 彼等のやり取りに興味はあるが見てはいけないと思い、意識して彼等から視線を外す。

 恋人同士の横を通り過ぎ、奥へ進むと女神の像を発見。

 

「勝利の女神?」


 女神の像の前で多くの人が祈りを捧げる。

 勝利や安全、賭けの対象者が優勝する事や女神になることなど各々祈っている様子。

 この空間だけは静寂に包まれ、心安らかでいられる。

 私は聖女ではないし、祈りになんの力もない。

 それでも、石像の前で祈った。 


「皆さん無事でありますように」


 真剣勝負に挑む彼等に対して危険だから『試合を中止してほしい』なんて言えない。

 私に出来る事は、彼等の無事を祈るだけ。

 祈っている時間、余計なことを考えず穏やかな気持ちになる。

 聖女でなくても、祈りの場は心地いい。

 私がこの場にいても誰も興味を示さないのがまたいい。


「ふぅ……」


 どのくらい祈っていたのか分からないが、気分が落ち着き祈りを終える。


「そんなに一生懸命何を祈っていたんだ?」


 振り返ると一人の騎士の姿。

 恰好からして何かしらの出場者。

 周囲には私だけ……ということは、この人は私に声を掛けた?


「え? あっと……出場者、皆さんの無事を」


「出場者全員の無事を祈ったのか? 誰かの優勝じゃなくて?」


「はい。皆さんの無事が一番かと」


「なら、あんたは……」


「何でしょう?」


「いや。俺、二回戦に進出した。あんた応援席にいたよな?」


「ん? あぁ、あの時の剣の試合に出場していた人ですね」


 ヴィルが優勝を見極めた彼だ。


「あぁ。誰も喜んでなかったのに、あんたは喜んでくれたな」


「皆さん喜んでいましたよ?」


「いや。俺の対戦相手の方に賭けていた人間が多くて俺の勝利を喜ぶのはあんたくらいだった」


「そうなんですか? だけど、あなたの方が強いと評価する方もいましたよ?」


「珍しい奴もいるんだな」


「実力は、見る人が見れば分かると」


「それって男か?」


「はい。私の隣にいた男性です」


「それって、あんたの男?」


「私の男? とはどういう意味でしょう?」


「その男は恋人か?」


「恋っ違います。恩人です」


 ヴィルが私なんかの恋人だなんて……

 そんな迷惑をヴィルに掛けられない。

 誤解は確りと解いておかないと。


「恩人……ねぇ……あんたの名前教えてくれねぇ? 俺はリック」


「ロッティです」


「俺、あんたに優勝を贈るよ」


「私に? リックさんには優勝を贈りたい方がいるんじゃないんですか?」


「そんな相手いない」


「あの……ごめんなさい。私、リックさんの気持ちには応えられないかと……」


「恩人のためにか?」


「はい」


「その恩人も大会に出場しているのか?」


「はい」


「何に?」


「……馬上槍試合です」


「馬上槍試合……なら、優勝した方の『勝利の女神』になればいいんじゃないのか?」


「二人の女神なんて出来ません」


「俺が優勝できるか分からないし、恩人も優勝するのかわからないだろ? 勝った方の『勝利の女神』になればいい」


「そんな不誠実なことは出来ないです」


「不誠実ではなく、勝利を『女神』に捧げるだけだ。不誠実などない。勝利したのに誰にも受け取って貰えない方が寂しいだろう」


「寂しいのでしたら、私でなくても……リックさんの『勝利の女神』になりたい方は沢山いらっしゃるかと」


「俺はロッティに捧げたい。その為に勝利を掴み取る」


「リックさん」


「それと次に会った時、俺の事はリックで」


「……リック?」


「じゃ、また試合応援してくれよ」


「あっリック……さん」


 彼は去って行ってしまった。


「『勝利の女神』なんて……私には不釣り合いなのに……」


 体調は落ち着いたが、悩み事が出来てしまった。

 解決出来ないまま馬上槍試合の会場へ向かう。

 どの会場も盛り上がっているが、馬上槍試合の熱気はどの会場よりも凄い。

 

「ロッティ、大丈夫か?」


「あっはい……もう、大丈夫」


「……何かあったのか?」


 私としては隠しているつもりなのだが、ヴィルには気付かれてしまう。


「あの……先程、剣の大会に出場していた方と話をしまして……」


「何かされたのか?」


「いえ、何も……ただ……勝利の女神にと……あの、私一度断ったんです。ですが、勝利を贈る相手がいないからと言われ……」


「深刻に考えなくても、大会期間中に勝利を贈りたい相手が現れるだろう。それに、剣の方も簡単に優勝できるものでもないからな」


 『勝利の女神』を断りたいからと、彼が負ける事を祈りたくはない。

 知り合ってしまったからには、彼には勝ってほしい。


「彼にとっての『勝利の女神』が現れてくれたらいいんだけど……」


 不安に思いながらも試合は進んでいく。

 ヴィルは順調に勝ち進み、リックの方も勝利している。

 賭けの対象として二人の名前をよく耳にするようになった。

 私の知っている名前だから耳が拾ってしまうだけかもしれないが、賭けはかなり盛り上がっている。

 馬上槍試合ではヴィルとヴィルが出場しなかった前大会の優勝者、訛りの騎士と正体不明の騎士が有力とされている。

 剣の試合では前回の優勝者、前回の準優勝者、他国で名を挙げた騎士、今大会で一番体格のいい騎士と話題でリックは今のところ大穴狙いで名が挙がっているらしい。

 試合で勝ち進むと、女性達が本格的に動き出す。


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― 新着の感想 ―
ヒュー!せっかく勝ち上がったのに微妙な反応されたと思ったら、可愛い女の子が自分の勝利に喜んでくれていた、そりゃ奮い立つよね カルロッタに空前のモテ期が来てるわけだがこの調子だと弓試合の参加者からもアプ…
女性達が本格的に動き出す。 ……こわっ
好き!最後の1行、 試合で勝ち進むと、女性達が本格的に動き出す。 女性にとって狩りの時間の始まりですね。 ただ、後からで間に合うのかなぁ。
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