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二度と聖女は致しません  作者: 天冨 七緒
勝利の女神編
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「ロッティ、よそ見していると危ないぞ」


 船が到着しそのまま会場へ向かったので、街の雰囲気に流され楽しくて浮かれてしまう。


「はい、気を付けます。そうだ、質屋など宝石を換金できる場所はありませんか?」


「あぁ、知っているがどうしてだ?」


「これを換金したくて」


 持ってきた宝石をターナムに見せた。

 

「……個性的な形だな。いいのか? 換金して」


 ターナムは言葉を選んでくれたようだが、私が持ってきた宝石は個性的などではなく下品といえる品物。

 宝石商が持ってきた物を母が手あたり次第購入し、好みじゃないからと私に押し付けた代物。

 私はもともと宝石には興味はないし、趣味でもない宝石をいつまでも持ち続け彼らを思い出したくもない。


「これは、生活費のために持ってきたもので思い入れなどはありません」


「そうか。それならいくつか店を回って確認した方がいいだろう」


 ターナムの案内で店を巡る。


「形は個性的だが、宝石に関してはもう少し値が付くはずだ」


 店主の提示額を聞きターナムの交渉を見る限り、私一人では安く値切られていたに違いない。

 それより気になったのが、私が持ち出した宝石は母が言っていたほど高額ではなかった。

 宝石について詳しくない私にはそれで充分だと思っていたのかもしれない。

 それでも当面の生活費には申し分ないので、それだけで十分。


「よかった。ターナムのおかげです。ありがとうございます」


「いや、問題ない。それより目的のサッシュを見に行くか」


「はい、そうですね」


 大会が開催されると贈り物を求める客が増えるため、どの店も何かしら贈り物を置いている。

 サッシュにハンカチにガーターを女性は準備し、男性は花を贈り優勝を誓う。


「あっあのお店、いいですね」


「入ってみるか」


「はい」


 露店のような雰囲気はなく、一つ一つが丁寧に陳列されている。

 店員さえ優雅で商品をじっくり選ぶことが出来た。


「ターナム、これなんてどう思いますか?」


「良いじゃないか、ヴィルに似合うと思うぞ」


「そうですか? ではこれにします」


 男性に贈り物は初めてなので自信が無かったが、ターナムの反応も悪くなかったので決める事が出来た。


「はぁ、良かった。あっ、そうだ。ターナムも用があったんですよね?」


「あぁ、俺は……あの店に用が」


 あの店と言って、ターナムは人形を売っている店に入って行った。

 私も追いかけて店に入ると、ターナムは既に真剣な表情で熊の人形を選んでいる。

 真剣に選ぶ姿から、ターナム自身が熊の人形が大好きなのか贈る相手が熊の人形が大好きなのだろうと悟る。

 私は邪魔することなく彼が人形を選び終えるのを待つ。


「……待たせた」


「いえ。素敵なものを選べましたか?」


「あぁ」


 満足そうに笑い、人形を大事に抱えているターナムと共に店を出た。

 

「あらぁ、あなたあの時の……隣の彼の勝利の女神になる予定なのかしら? ならヴィルは私に任せて頂戴」


 ヴィルの勝利の女神を狙っているシルビアに偶然遭遇。

 彼女は私と同じ店の包み紙の贈り物を手にしていた。

 

「あの、私は……」


 彼女は私の言葉を聞く前に去って行く。


「大丈夫だろう。あいつも俺がヴィルの仲間だと知っていてわざと言ったんだ」


「大丈夫ですかね?」


「問題ない」


 私が沢山の男性の『勝利の女神』になろうとしていると誤解されたのではないかと不安を抱えつつ会場に戻る。

 ヴィルの姿を目撃し、約束のサッシュが前夜祭には間に合い安堵した。

 そして次の悩み事はいつ渡すのか。

 考えたが、皆に目撃されることが最重要事項であれば前夜祭に渡すのが一番。

 

「ロッティ、前夜祭に着る服を準備した。これを着て欲しい」


 ヴィルから渡された服は過度な露出も豪華な宝石もない、シンプルなロングワンピース。

 だけど、夜空を思わせるブルーからパープルのグラデーションが綺麗で装飾品など無くても見劣りはしない。

 出場者とパートナーのみが参加できる前夜祭。

 コンフィやターナム、エディは前夜祭に参加は出来ないが、前夜祭に参加しない者同士が至る所で盛り上がっている。

 お酒の飲み比べに主人の勝敗についての賭け事。

 大金は賭けないが、料理や飲み物の代金などを賭けるらしい。

 それよりも、前夜祭に参加する私はというと……


「緊張しているのか?」


「正直……はい。誰かのパートナーというものに慣れていなくて、ヴィルに迷惑をかけるのではと思うと……」


 私一人の失態ならそれでいい。

 だけど、今回はヴィルのパートナー。

 私の行動がヴィルにも関わってくると思うと緊張してしまう。


「ここは単なる前夜祭。貴族の集まる畏まったパーティーじゃない。失態を犯したとしても、そこまで神経質に追及する者はいないし俺達は外国人だ。気になるようならこの国を離れ、別の国に行けばいいだけだ」


 別の国に行けばいいだけ……

 あの家から抜け出した私は、元の国には戻れない。

 逃げた私にはこの国しかなく、定住しなければと考えていた。

ヴィルの言葉は視野を狭めていた私にとって目から鱗だ。


 この国が合わなければ、別の国に行けばいい……


 そんな考え、私には思い浮かばなかった。

 ヴィルは凄い。

 私の視野を広げてくれる。


「はい」


「笑顔になったな」


 私はずっと緊張して表情を強張らせていたらしい。

 少し視野を広げると、ふとあることに気が付いた。

 私が着用している服の柄とヴィルの上着は同じ生地らしい。

 男性が着ても違和感のない柄。

 パートナー同士が衣服を揃えるには色んな意味がある。

 ヴィルはそれを利用したのだろう。

 服を揃えることで周囲に私がパートナーだと宣言したことになる。

 勝負の妨害を防ぐための私はヴィルの役に立たなければならないのに、何も出来ていない気がしてならない。


「前夜祭に参加される方はこちらに」


 会場へ入るには、出場者である事を確認してからとなる。


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