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「カルロッタ、今日は教会の日ね」
母がにこやかに私に声を掛ける姿を見ると一歩引いてしまう。
日照りが続いた地方に雨を降らせたのは今日祈りを捧げた令嬢達の中にいると言われ、次第に私だと絞りこまれた。
「……そう……ですね」
私の知っている母は、私の事をソレーヌの姉としか見ておらず最後には家族の縁を切った人……
そういえば、この人がこんな風に私に笑顔を向けたことはあっただろうか?
「今日はいい天気だから、きっといいことが起こるわ」
あの日の母はこんなに浮かれていなかった。
何かあったのか?
あったとしても、全ては妹絡みで私ではない。
「……カルロッタ、私はお前が娘で誇りに思う」
「えっ? 急に……どうしたんですか? 」
父にそんな事を言われたのは初めてだ。
父も母もどうしたというの?
「お姉様っ、教会の帰りに宝石店で好きなものを買ってくれるってお父様が約束してくれましたよ」
「……そう」
ソレーヌだけはいつも通り。
皆で教会に向かう馬車の中も両親は私に話しかける。
過去そんな事は無かった。
ソレーヌが会話に入るも以前とは違う反応を示す事にも違和感しかない。
「ねぇ、お母様。今度のお茶会では必ず新しい服と宝石で参加したいです。新しいのいいですよね? 」
「そうね……カルロッタに新しいのが必要よね。話題のデザイナーに三着程お願いしなきゃね? 」
「あぁ、そうだな」
ドレスや宝石を望んだのはソレーヌ。
私の分も、それに三着準備しようとするなんて考えられない。
私の誕生日にドレスを一着、毎回既製品だった。
母だけでなく、父もドレスを作ることに賛成するなんて……
私も以前、ソレーヌのようにドレスを二着欲しいと強請った事があった。
ソレーヌはその時、「一つになんて決められない」と言って合計四着となった。
私は二着だったので、お許しが出ると思っていた。
だが、父の答えは……
『ドレスなんて、一着あれば十分だろう』
だった。
私は毎年一年間、同じドレスでパーティーなど参加していた。
公爵令嬢の私が何度も同じドレスを着用すれば、周囲も気付く。
誰か一人でも気が付いてしまえば社交界で一気に噂は広まる。
我が家の私と妹の扱いの差は明らか。
嫌味も受けることもあったが、何度か経験すると悲しい事に慣れてしまうもの。
それなのに、両親が私にドレスを三着なんて……二人は私の知っている両親なのだろうか?
「もうっ二人共、私がドレスを望んだんです。お姉様はいつものように既製品のドレスで良いじゃないですか? お姉様の分も私のも作ってください」
ソレーヌだけは、私の知る妹で安心する。
「ソレーヌッ、いい加減にしろっ」
「貴方のドレスは沢山あるじゃない。少しは我慢しなさいっ」
両親がソレーヌに対して強い口調で窘めるなんて信じられなかった。
それは私だけでなく、ソレーヌも驚いていた。