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「あの……ヴィル?」
「あぁ、彼女は以前の大会で知り合った。俺が『勝利の女神』に誰も指名しないことで声を掛けてきたんだろう」
「勝利の女神って……」
「あぁ。『勝利の女神』というのは、出場者のパートナーの事だ」
「出場者のパートナーが勝利の女神?」
「あぁ。試合前後にはパーティーが開催される。その時のパートナーの事だ」
「前回は誰も指名しなかったってことは、ヴィルはパーティーに参加していないの? それともパートナーなしで参加を?」
「俺は一人で参加した」
「一人で……」
パーティーに一人で参加するというのは、私の経験上惨めな思いをする。
もしかしたら、ヴィルも前回のパーティーで嫌な思いをしたのかもしれない。
だから、私に声を掛けたに違いない。
「一人でも問題ないんだが、勝者が一人というのは目立つ。その時覚えられたのか、女性達に声を掛けられることが多くて困っていた。先程の女性も俺が一人なら同伴したいと声を掛けて来た一人だ。後夜祭に参加すれば出資者の裕福な平民や貴族との接点も増える。彼等との繋がりを求める者に目を付けられたらしい」
ヴィルはそう話すけど、本当にそれだけ?
優勝者に声を掛けるのは貴族との繋がり欲しさもあるだろうが、先程の女性は違うように感じる。
彼女の私を敵視する目。
……ヴィルに興味があるように見えた。
ヴィルはその事に気付いてない?
私の考えすぎだろうか?
「ロッティ、悪いな。優勝候補の出場者には『勝利の女神』がいる。勝利の女神のいない俺には試合前からあぁいうのが来るんだ。試合に集中するために、俺の勝利の女神になってくれないか?」
「私でよければ?」
「ロッティなら、俺の寝台に上がりこむことも試合前に薬を盛ることもないだろう?」
「そんなこと致しません」
男性の寝台に上がるなんて破廉恥な。
薬を盛る?
そんな事致しませんっ。
「それだけで安心できる。優勝候補には色んな誘いが来る。試合には賞金もあり、戦利品として負けた人間の馬や勲章を貰うこともある。過去には貴族令嬢との婚約を手にした者もいる。試合で人生が変わるので、どんな手を使ってでも勝ちたい人間は少なからずいる。余計なことに振り回されたくないから、傍に置く者は信頼の出来る人間が良い」
女性を使ってでも勝ちを得たい人がいるのは分かった。
だけどシルビアがそんな女性には思えない。
だからと言って、完全に白ということでもない。
なので、ヴィルは私を選んだらしい。
既に会場入りして誰と親しいのか分からない女性より、この場に知り合いのいない私を選んだ。
それだけ。
深い意味はなく、私と先程の女性を天秤にかけて私の方が安全だと判断したのだろう。
それでも、誰かに『信頼できる』と思われるのは嬉しい。
「私はそんなこと致しません」
誰かを陥れることはしないし、ヴィルを裏切りたくない。
「それだけで十分だ」
私達は食事を終え、テントに戻る。
「ロッティ、俺達はこっちのテントにいる。何かあれば大声をあげろよ。すぐに駆け付けるから」
「はい」
隣のテントに彼等がいると思うと不安はない。
「出場者って大変なんだなぁ。ヴィルが変な罠に掛かりませんように……」
先程の会話を思い出すと、呟いていた。




