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二度と聖女は致しません  作者: 天冨 七緒
勝利の女神編
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「ロッティ、もっと気楽に話そう」


「気楽に?」


「あぁ」


「……はい」


 私に『気楽に話す』ということが出来るだろうか?


「俺達もそろそろ持ち場に戻る」


「ヴィル……私にも出来ることは、ありますか? あっ、ある?」


 皆が働いているのに、私一人ノンビリ過ごしているのも申し訳ない。


「出来る事? 船内でゆっくりしていて構わないぞ」


「私……自分に何が出来るのか知りたいです」


 聖女だと思い込み、国の為に祈りを捧げていた。

 それが無意味だと知らずに。

 私は自分に何ができるのか分からない。

 出来る事があるのか知りたい。


「そうか……船内の仕事はかなりの重労働で、狭く熟練度を必要とするから新人を一から教育している余裕は正直ない。気分一新、新天地で新たな自分探しを~と思っているかもしれないが、焦る必要はないんじゃないのか?」


 ヴィルの言う通りなのかもしれない。

 何も出来ない私が船内をうろちょろすれば、働いている彼らの妨げとなってしまう。 

 基本知識のある者が船内で働くならまだしも、私は何も知らない。

 そんな人間が最小限で仕事を回している船内で働くのは無謀……

 その事にも気が付かない私。

 こんなこと、ヴィルも言いたくなかっただろうに……

 彼に言わせてしまった私は、考えが浅いのだと思い知る。


「……はい、ごめんなさい。ヴィルを困らせてしまいましたよね」


 自分に出来る事より、迷惑をかけていたことを知る。


「いや、好奇心があるのはいいことだ。俺も最初はそうだった」


「……ヴィルも?」


「俺も、『何かしたい』って気持ちが焦るばかりで自分が何をしたくて、何ができるのかも分からないまま周囲を困惑させていた」


「それで、ヴィルは何からしたんですか?」


「俺は……どんな仕事があって、従業員の動きや流れを把握するために観察して真似たかな」


「観察し真似る……」


 ヴィルの言う通り、私は『仕事』を一括りにしてどんなことをしているのか分かっていなかった。

 それで「働かせてください」と言っても、相手に頼りすぎていて周囲の迷惑でしかない。

 言われるまで気付かなかった。


「あぁ。仕事は流れを知らないと妨げになるからな」


「流れ……そう……ですよね。ごめんなさい」


「いや、その気持ちは謝罪する事じゃない……焦らず行けばいい。新たな環境に不安を覚え自信をつける為に『独り立ちしたい』と思って模索しているのかもしれないが、船内と陸では仕事効率が違う。ここで仕事を把握するのもいいが、陸で必ず役に立つものでもない。色んなものを見て経験してからでも遅くない。それに、今は初めての船旅を楽しんでもいいんじゃないか?」


「船旅を楽しむ……」


「国を出るのは初めてなんだろう?」


「……はい」


「なら、今は船旅を楽しんでほしいね。この船は自慢の船なんだ」


 自慢と告げるヴィルから本当にこの船が好きなのだと分かる。


「……はい」


 ヴィルの言葉で船員たちの行動を観察してみた。

 彼の言う通り、忙しなく働き彼らの動きに無駄がない。

 そんな乗組員に交じって何も知らない私が働き出せば、きっと彼らの仕事の妨げとなり支障をきたしていただろう。

 観察するというのは大切だと知った。

 その日から目的の国に到着するまで観察していた。


「ロッティ、最近は熱心に船員を見ているな」


「はい、ヴィルに言われたように皆さんがどのように仕事しているのか見て学んでいます」


「学ぶ……船旅を楽しんでほしかったんだけどな」


「楽しいです。今まで気づかなかったのですが、一人の仕事が次に繋がって船全体を動かしている。だけど、それは表に出ることなく快適に船が進む。面白いです」


「楽しんでいるなら良かった」


「はい。こんな機会を頂けてヴィルには感謝しています」


「明日にはルーメルティーニア国に到着する」


「そうなんですね」


「滞在期間は一月の予定だ」


「一月……」


 滞在期間が一月というのは、長いのか短いのか。


「あぁ、現地で馬上槍試合に出場予定なんだ」


「馬上槍試合……ですか?」


「あぁ、ロッティは馬上槍試合の試合を見学したことはあるか?」


「いえ。私は拝見したことがないんです。教会……その……両親が熱心に教会に通うもので、その関係でそういった催しの見学は許されなかったので」


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― 新着の感想 ―
ほぼ一人のせいにされていたから、操船の協働作業は目から鱗だったんだろうなぁ。一人に責任をおしつけるなんてやってられないっすよねぇ。
更新感謝!
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