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「カルロッタ、話がある」


 父に執務室に呼ばれた。


「はい」


「王族に婚約者変更について報せがあった」


「婚約者はソレーヌに? 私なら問題ありませんよ」


「いや、婚約者の変更を認められなかった」


「認められない? 何故ですか?」


「調査の結果だ」


「調査?」


「お茶会での評判と本人の資質だな」


「お茶会での私の存在はソレーヌの足元にも及びません。人々に影響を与えることが出来るのはソレーヌです」


「王子とファーストダンスした時点で影響は出ている」


「私は王子と婚約する気はありません」


「王族には通用しない。それに、聖女と偽証するような人間は信用ならないと断言された」


「それは……私です。私がそうするようにソレーヌに伝えました」


「だとしても実行し、あたかも聖女のように振舞っていたのはソレーヌ自身だ。私達が何を言おうとその事実は変わらない」


「……ソレーヌにも伝えたんですか?」


「これからだ」


「ソレーヌは納得しませんよ」


「納得する必要はない。決定事項だ。それで王室からの要請で、来週から王妃教育が始まる」


「王妃……教育……」


「話は終わりだ。行きなさい」


「……はい」


 執務室を後にすると使用人がソレーヌの部屋へ向かうのが見えた。

 ソレーヌに鉢合わせしないよう部屋に逃げ込んだ。

 よく聞き取れはしないが、ソレーヌの叫びだけは聞こえた。


「お嬢様、お食事の準備が整いました」


 呼ばれたので食堂に向かう。


「お姉様が望んだんですか?」


「ソレーヌ?」


「お姉様とシュルベステル様は不釣り合いです。婚約を辞退してください」


「私も辞退できるものならしたいわ」


「望んでもいないみたいな言い方ですね。私、お姉様のそういうところが嫌いなんです。公爵令嬢でありながらお茶会も開催しない、社交界でもどこにいるのか分からない。高位貴族でありながら矜持を示さないなんて……お姉様は貴族失格です。それなのにどうして、お姉様が婚約者に指名されるんですか? 公爵家の長女と言うだけではありませんか。私、間違ってます?」


「……間違っていないわ、ソレーヌの言うとおり。私に王子の婚約者は向いていない」


「私が正しいのに、私が悪者になるなんて……お姉様はズルいです。こうなる事、分かっていたんじゃないんですか?」


「どういうこと?」


「私を聖女と煽てて、内心笑い者にしていたんじゃないんですか? 私を利用してシュルベステル様と親密になり、機会を窺って私が聖女ではないと囁いたんじゃありませんか?」


「そんな事していないわ」


「お姉様の言葉を信じて、私はお茶会で聖女らしく振る舞いました。お父様から聞きました。それが原因だと……」


「……ごめんなさい。こんなことになるとは思わなかったの。私は……ソレーヌが聖女だと今でも思っているし、王子の婚約者はソレーヌこそ相応しいと本気で思っているわ」


「本気でそう思っているのなら、消えてください……お姉様なんて、いなくなってしまえばいいのに……」


 ソレーヌの言葉が耳から離れない。


「私……消えればいいのかな……」


 ソレーヌの後ろ姿を見送り。廊下にいつまでも立ち止まっていた。


「カルロッタ」


「……お母様」


「ソレーヌも、いつかは分かってくれるわ」


「……お母様は……私よりソレーヌが王妃になるべきと考えていたんじゃないんですか?」


「そんな事ないわ。私は貴方の幸せも願っているのよ」


「……信じられません。お母様はいつもソレーヌばかりで、私の存在など気にも留めていなかった」


「そんなことないわっ」


「お母様は、ソレーヌのお母様であって……私のお母様だったことはありませんでした」


「カルロッタ……違うのよ……違うの、ごめんなさい。ごめんなさい。これからはちゃんと母親をするわ。貴方をそんなに苦しめていたなんて……ごめんなさい、許して」


「私は……王子の婚約者になるつもりはありません。ソレーヌがなるべきです。私の母でもあるなら、貴方が周囲を説得してください」


「カルロッタ……」


 気分が悪いと言って、食堂へ向かわず部屋に戻った。

 今日は彼との約束の日。


「今から向かえば……」


 急いで荷造りをし、馬車を走らせる。

 御者には港付近の町で下ろしてもらう。


「お嬢様、お戻りはいつ頃ですか?」

 

「……何時頃かしら……ゆっくり見たいから……」


「そうですか。では夕刻にはこの場所に」


「……えぇ。いつも、ありがとう」


 馬車を見送り港まで走った。

 走る事には不慣れで心臓の鼓動を強く感じる。

 

「緑の旗……緑の……」


 港には何隻もの船があり、緑の旗が結ばれた船を探す。

 

「あった……緑の旗……」


 急いで約束の船まで駆け寄る。


「ぁのっ……すみません……ぁあのっ……」


 出航前の船は忙しく、誰にも私の声は届かない。

 彼の名前を呼びたいのに、名前を聞いていない。

 ここまで来たのに、私は船を見送ってしまうの?


「ぁのっ……あのっ」


「あぁ、来たのか?」


 欄干から顔を覗かせたのは、パーティーで出会った彼。


「わっ私も連れて行ってもらえませんか?」


「覚悟は決まったのか? 乗ったら、簡単には戻れないぞ?」


「戻るつもりはありません。私を連れて行ってもらえませんか?」


「……分かった。エディ、彼女を船内に」


 積み荷を整理していたエディと呼ばれる彼に誘導され船に乗り込む。


「あんたヴィルの知り合いか?」


「あぁ……はい」


「ヴィルッ」


「エディ、ありがとう」

 

「あぁ」 


 彼に船内を案内してもらう。


「えっと……そろそろお名前を聞いてもいいでしょうか?」


「おっと、そうでしたね。私の名前は……ヴィルヘルム、船では省略してヴィルと呼ばれている」


「ヴィル様」


「いや、ヴィルで頼む」


「はい……ヴィル。私の名前はカルロッタ……愛称で呼ばれた事はありません……」


「そうなのか? なら……ロッティと呼んでいいか?」


「はい、それで構いません」


 ある扉の前で立ち止まる。 


「ロッティはこの部屋を使うといい。一人部屋だ。鍵は内側から掛ける事」


「はい」


「食堂は皆と一緒。いい奴等だが、酒が入ると豪快になる。苦手なようなら早めに済ませるか、俺かエディ……あとターナムって奴もいるんだが……今は忙しくしている。後で紹介するが、彼ら二人は酒に溺れる事は無い」


「ありがとうございます。皆さんに迷惑かけたくないので早めに済ませるようにします」


「俺はまだ少し忙しいから、甲板で町にしばしの別れをするといい」


「……そうします。ありがとう」


 仕事に戻るヴィルとは別れ、一人甲板に移動した。

 船から見る町は知っている場所なのに初めて見る風景。

 誰も私なんて気にしない。

 いなくなった私を悲しんでくれる人もいない。 

 それが私。

 過去の私はもういらない。

 そんな私をここに置いて行く……


「さよなら……私……」


 もう、ここへ帰ってくることはないだろう。

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― 新着の感想 ―
あの状況下で、簡単にばれずに港まで行き、貴族令嬢を一人置いてきて後で待ち合わせ…には無理があるかなと。 せっかくの記憶持ち達が皆揃って残念なのが笑えます。 徹底して自分は聖女ではないと信じてる主人公も…
見ず知らずの男についていく、、、狂ってんのか? あたま、お花畑もええ加減にせーよw でも、物語は面白いです。はい
前回は聖女が亡くなって国が荒れ放題になっていたけど、今回は聖女が居なくなってどうなるのだろうか? 何事も聖女の祈りでは解決しないからと頑張るのか、このままひどくなっていって滅びるのか? 『前回を知る者…
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