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「どうしてお姉様がシュルベステル様の婚約者に選ばれるんですか?」
パーティーが終わり屋敷に帰る馬車の中ではソレーヌが怒りを露わにする。
ここまで我慢できたことは褒めるべきかもしれない。
令嬢達に質問攻めにされたらしい。
『いつ頃、聖女様と発表なさるのですか?』
『王子の婚約者はカルロッタ様なのかしら?』
触れられたくない質問だろうが、そこまでは笑顔で対応したらしい。
『最近も忙しいのかしら?』
『我が領地の嘆願書は目にしてもらえたかしら?』
『名声欲しさに偽りを語った令嬢、婚約の話は消え去ったみたいですよ』
『どんな理由があったとしても、聖女様と偽るのは大罪よ……そう思いません?』
その言葉は、過去の人物に対してなのかソレーヌに対してなのか。
ソレーヌは自身に向けられたと感じ、したくもない相手とダンスをし続けた。
その結果が今に至る。
「バルリエ公爵家との繋がりが欲しいのでしたら、私を婚約者に勧めてください」
「ソレーヌ、王族はカルロッタを望んでいる。ワガママは止めなさい」
「お父様っ、私が可哀想とは思わないのですか? 教会が間違えたんですよ、私を聖女だと。私から『聖女』と名乗ったわけでもないのに……このままでは私、笑い者どころではありません。私の名誉の為にもシュルベステル様と婚約させてください」
「……カルロッタはどうなんだ? 王子との婚約について」
「私もソレーヌの方が良いと思います」
「……分かった。王族に話してみる」
「絶対ですよ」
ソレーヌは私を睨むだけで何も言わなかった。
その後もソレーヌは何度も父に確認する。
「お父様、婚約の件はどうなりましたか?」
「……王族も決めかねている様子だ」
「何を決めかねているのですか?」
「一度カルロッタと内定していたところ、ソレーヌに変更と言うのは議論が必要だ。王族の婚約とはそういうもので時間が掛かるんだ、待ちなさい」
王族から婚約者変更の報せは一向に届かない。
届く手紙と言えば……
「私宛の手紙は?」
「……ソレーヌお嬢様には、まだ……」
「その束は全てお姉様ってこと?」
「……はい」
パーティーで私がシュルベステルのファーストダンスを務めてしまったせいで、貴族達が勘ぐっている。
「カルロッタお嬢様……」
使用人はソレーヌの前で渡すことに躊躇いはあるものの、雇い主宛への手紙を渡さない訳にはいかない。
「私の立場を奪って楽しいですか?」
「奪ったつもりは無いわ」
「お姉様はいつも私の物を奪いますね?」
「……どういうこと?」
「お父様もお母様も今では私よりもお姉様ばかり。お茶会の招待状はお姉様にだけ。私は? 犯罪者でもないのにどうしてこんな思いをしなければならないんです? 婚約者は譲りませんよ」
「私は王子と婚約するつもりは無いわ」
「どうだかっ」
「ソレーヌ」
「疲れたので部屋で休みます。これ以上お姉様と話したくありませんっ」
あれからソレーヌとはこんな感じ。
こんな日常がいつまで続くのか……




