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 今がいつなのか確認すると、やはり三年前だという事が判明。


「三年前……であれば、私が十六歳……教会から聖女の可能性が高いと判断されたのよね……」

 

 我が国には聖女を判定する聖具というものは存在しない。

 聖女が祈れば願いが叶えられると言われている。

 祈っている最中に聖女の体が光り輝くということもない。

 聖女を発見するのは難しい。

 過去には聖女を自称する者も現れたが、すぐに能力がないと判定された。

 自称ではなく、本当に自身が聖女と思っている場合もある。

 

「私の場合は確か……雨だ……」


 教会へ行き、司祭の話の中から祈りの内容を選んだ。


『スカルキー地域では長い間雨が降らず、農作物や貯水池にも影響を与えている』

『国境付近では魔獣の発生が多発している』

『初代の聖女が王宮に植えた木が枯れ始めている』


 祈りの内容は自ら決め、教会に提出し祈りの場で祈る。

 祈りを行うのは祈りの場でなければならないという事ではない。

 教会では祈りの場と決まっているだけ。


「あの時……ソレーヌも同じことを祈ったのね……」


 ソレーヌは初めて何かするとき、いつも私と同じものを選択する。

 それで私が聖女と間違われたのかもしれない。

 今回は違う内容を選ぼう。

 これから私は聖女に間違われない道を選択する。

 

「これで私は……幸せになれるかな? 」


 聖女となる前の私は、ソレーヌの姉という立場だった。

 バルリエ公爵家ではソレーヌが中心。 

 両親は可愛く愛嬌のあるソレーヌを溺愛している。

 私が注目されたのは、聖女と判定を受けてから。

 そして最高潮となったのが……


「カルロッタ、シュルベステル王子との婚約の打診を受けた」


「まぁ、すごいじゃないカルロッタ。まぁ聖女となればそうよね」


「お姉様すごいです。王子様と婚約だなんて」


 あの時は両親もソレーヌも喜んでくれ、私を見てくれた。

 そして彼も……


「カルロッタ様、今度のパーティーでは私にエスコートさせていただけますか? 」


「はい、よろしくお願いしますね」


 初めのうちは婚約者扱いを受けていた。

 私達は恋人関係ではないが、婚約者という立場で接してきた。

 恋愛感情はなくとも、信頼関係は出来ていたと思っていた……

 だけど、思い返すと私よりソレーヌとシュルベステルが一緒にいる姿を目撃する事は多々あった。


「お姉様、今日も祈りに向かわれるんですよね」


「えぇ」


「ラウーレン地方で魔獣の姿を多く確認されていると聞きます」


「そうなの? 分かったわ」


 教会ではソレーヌの情報もあり、魔獣に対しての祈りを捧げた。


「本日もお疲れさまでした、聖女様」


「司祭様もありがとうございます」


「お気をつけてお帰りください」


 屋敷に戻る。


「それでですね、お姉様は王宮の初代聖女様の木が心配なんだそうです」


「聖女の木も弱り始めたからな」


「心配ですね。聖女様の木はとても大切なのに、私ったら友達のラウーレン伯爵令嬢に相談された事ばかり悩んでいました」


「ラウーレン伯爵令嬢? 」


「彼女から領地の魔獣が増えたという相談を受けて心配なんです」


「ソレーヌは優しいんだな」


「そんな事ありません。友人が悩んでいるのに何もっ……出来ないなんて……」


 涙するソレーヌを慰めるシュルベステル。

 頭をなで、伝う涙を手で拭う姿…… 


「ん? カルロッタ、帰って来たのか? 」


 応接室で二人を見つけ距離を詰めていくことに不安を感じなかったわけではない。

 だけど、シュルベステルから声を掛けられ慌てた様子もなかったので、二人が後ろめたい関係ではないんだろうと思い込むことに……

 過去の光景を思い返せば次第にソレーヌとシュルベステルが親密な関係であったのを今さらながら理解する。

 あの頃は聖女として振舞わなければならない、聖女なのだから誰かを羨んではいけない、嫉んでは過去の聖女様方に失礼と思い自身の感情から目を逸らしていた。 

 だけど、私の中にはちゃんとそれらの感情は存在していた。

 周囲が私を見なかったんじゃない、私が私を見なかったんだ……

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― 新着の感想 ―
>周囲が私を見なかったんじゃない、私が私を見なかったんだ…… 最近、無自覚だった自分の感情と向き合うことの重み、重要性に気づき出しました。とても大切なことだと思います。
元々、聖女時代も妹に操られてたと言う感じですかね。
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