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<記憶のある者>
<司祭・エルディトム>
『お前が聖女様を追放した司祭かっ……お前さえいなければっお前さえっ』
あまりに恐ろしい形相を向けられたのは初めて。
身動きが取れなくなり、私は倒れていた……
「うわぁぁああ……」
恐ろしい悪夢で目が覚める。
このようなことは初めて。
「はぁはぁはぁ」
呼吸は乱れ、汗も尋常ではなかった。
「あれは……夢なのか?」
私は特別な能力があって司祭に選ばれたわけではない。
真摯に神と向き合い人生を捧げた結果、司祭に選ばれた。
努力で掴み取った地位。
権力や地位を欲するあまり不正をする者もいたが、彼らは罪を暴かれ教会を追放された。
因果応報。
神の前では罪が見逃されることは決してない。
誠心誠意、神に仕えること。
神を信じ、疑わずに生きていくだけの事。
難しい事ではない。
それが出来ない者は、教会に不向きなだけ。
私は私が司祭に選ばれたのは当然の事と納得している。
「あれは……神からの警告……」
聖女は夢などで神から警告・忠告を受けることもあると聞く。
夢の私は本物の聖女を偽物と誤った判断を下した結果、国は災害に見舞われ魔獣を引き寄せ人々を混乱させた。
教会は信用を失い、国民が暴徒化。
助祭や見習い達は危険を感じ逃げ去った……
「司祭様もお逃げください」
「……私は神と共に」
最後の見習いも出て行き、教会に残ったのは私一人……
国を混乱に導いた私は、簡単に教会を離れるわけにはかない。
「神よ、私は間違いを犯しました。どうか私を罰してください」
静寂に包まれていた教会が一変。
怒りに満ちた国民が雪崩れ込み、祈る私の周囲を取り囲む。
初めて耳にする罵声を受けながら、私は全てを受け入れ痛みに耐えた。
これは、私への罰だと意識を手放す……
「あれらは全て夢……」
あまりにも現実的で、時間が巻き戻ったのではないかと思う程の感覚。
時間が戻るなんてことが起きることは無い。
「神は……私に忠告をお与えになった。神に仕える者として聖女を間違えるわけにはいかない」
お告げでは、王子の言葉で考えを改め聖女を見直した。
だが、それが間違いの始まり。
「ソレーヌ……バルリエ……」
ソレーヌ・バルリエは聖女かどうかの検証の際、確かに聖女のような能力を保持していた。
誰かの策略か、偶然が重なってか……
「私は、何か見落としたのかもしれない」
彼女を……いや、聖女を判断するには慎重に見極めるしかない。
夢と同じことを繰り返さないよう、聖女候補を今まで以上慎重に見極めなければならない。
お告げでは、カルロッタ・バルリエ公爵令嬢こそが本物の聖女。
「信じていいものか……」
お告げだったとしても、私にそんな能力が果たして本当にあるのか……
私は、夢に囚われることなく慎重に聖女を見極めることに。
「神よ、私を見守っていてください」




