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<前回>
ソレーヌは聖女と公表してから多忙を極めている。
教会と王宮で教育を受け、お茶会の招待状が山のように届くので高位貴族のものを優先して参加している。
「ソレーヌ様の祈りは本物ですわ」
「ソレーヌ様こそ真の聖女ですわ」
以前領地を救ってもらったミシェル・スカルキーやヴァネサ・ラウーレンは、ソレーヌの祈りのおかげと言って聖女信者になった。
パーティーやお茶会ではもてはやされ、誰にも会わずとも贈り物が毎日のように届く。
誰もが真の聖女とお近づきになりたい一心だった。
そんな状況にソレーヌは……
「もう、困ってしまうわ。こんなに良くされても、私は何も返せないのに……相応に応じて皆様に幸せが訪れますように……と祈るくらいしか」
ソレーヌは直接接点のある人物の願いから祈る。
そのような状況なので、貴族達は競うようにソレーヌへ贈り物をする。
ソレーヌは贈り物の価値が願いの重要度を表していると考え高額な贈り物を贈る人を優先。
新聖女となり目まぐるしい日々を過ごしていると、次第にパーティーやお茶会よりも嘆願書が増え始める。
「本物の聖女って本当大変なのねぇ」
カルロッタが聖女であった時、嘆願書の存在はさほど目にしなかった。
それは貴族がカルロッタを信用していなかったということで、ソレーヌは自身がそれだけ期待されているのだと舞い上がっていた。
聖女として教会で祈り、シュルベステルの婚約者として王宮へ向かう。
王宮の使用人達も真の聖女に好意的。
次のパーティーの為のドレスや宝石も選び放題。
「もっと早く聖女と名乗れば良かった」
王宮で気分良く過ごしているソレーヌ。
「もうっ、私と会話したいからってそんな話しなくていいのに……」
聖女と会話したい貴族達は話題がないのかそれとも気を惹きたいのか、ソレーヌにとって興味のない領地の魔獣や不作・病についてが多くなる。
「話題豊富な男性でないと、いくら爵位があっても令嬢には人気無いのに。そんな事も聖女の私が教えてあげなきゃいけないのかしら」
彼らの話題のセンスの無さにうんざりし始めていた時。
「ソレーヌ、私達の結婚だが来年に決まった」
シュルベステルから結婚について具体的な報告を受けた。
「来年……とっても嬉しいです」
「それまでに、色々準備があって忙しくなる」
「大丈夫ですわ」
「あぁ、公爵令嬢で聖女の君なら問題ないだろう」
「えぇ」
「あれはどうしてる? 」
「あれ……とは?」
「偽者の事だ」
「シュルベステル様、私のお姉様をそんな風に仰るのはおやめください」
「すまない」
「お姉様は自身にも聖女の能力があると信じていたんです。いつか私と同じ能力を発揮すると……なのであの日、能力がないと知り相当衝撃だったようで、部屋に閉じこもってしまいました」
「衝撃って、ずっと君の功績を盗んでいたんだ。自身に能力が無いのには気が付いていたはずだ」
「いえ、違うんです……私もお姉様の能力を信じたくて、私が祈っていたのを『祈っていない』と言ってしまったんです。お姉様に喜んでほしくて……ごめんなさい。私があんなことを言わなければお姉様を苦しめる事はなかったのに……」
「……そうだったのか……辛かったな、ソレーヌ」
「ごめんなさい……ごめんなさい」
ソレーヌはシュルベステルの腕の中で涙を流し、シュルベステルは優しく慰める。
その後、結婚式の前にカルロッタを王宮のパーティーで名誉回復させる計画を企てる。
「シュルベステル様」
騎士が慌てた様子で報告する。
「どうした? 」
「バルリエ公爵から報せがありました」
「なんだ? 」
「カルロッタ・バルリエ公爵令嬢がお亡くなりになりました」
「何だって? 」
「報告書によりますと、衰弱死だそうです」
「衰弱死? 貴族令嬢が? 」
「聖女でなかった事を知り、その後部屋に閉じこもり食事を一切口にしていなかったそうです」
「そんなっ……」
聖女を偽証する事は大罪。
その為、貴族達の前で真実を公表する事を選択。
だが、カルロッタが衰弱死するとはシュルベステルは思わなかった。
聖女を偽証するという大罪を犯したので、常識がなく倫理観に欠けた人物だと決めつけていた。
カルロッタがまさか本気で自身を聖女だと信じ込み、衰弱死する程追い詰められていたとは夢にも思わず……
名誉回復のパーティーは葬儀へと変更。
あの日見た最後のカルロッタとは別人のように痩せ細っていた令嬢が棺に眠っていた。




